第9話「託宣《たくせん》」微ざまぁ




「お待ち下さい陛下!

 寝室にこんなに大勢で押しかけて来られたので動揺して力が出せなかっただけです。

 少しお時間をいただければ必ず……」


アイリーは父の腕にすがりついた。


「言い訳せずとも良い。

 そなたが聖女の力を失ったことは知っている。

 余はその確認に来たにすぎん」


父は彼女の手を振り払い冷たくそう言い放った。


「それはどういう意味ですか……?」


俺は医者の治療を受けながら父に尋ねた。


「そのままの意味だ。

 朝寝坊のお前らは知らんようだが今朝早く竜神ルーペアトより神託が下った。

 いや、託宣たくせんというよりはこの国の国民に対する絶縁状だな」


神がこの国に絶縁状を送ってきた?


「どういうことですか父上?

 詳しく説明してください!」


医者は俺の治療を終え部屋の隅に戻って行った。


傷口の血は止まったが斬られた腕がズキズキと痛む。


「宰相よ。竜神ルーペアトが全国民に送ったメッセージを、そこにいる馬鹿息子とその嫁に読んで聞かせろ」


「はい、陛下」


宰相が俺の前に来て手に持っていた巻物を広げる。


「陛下の命により、竜神ルーペアト様の神託を読ませていただきます。

『あー、あー。

 この国の民よ、久しぶり〜。

 僕と交流のあった民は二百年以上前に死んじゃったからはじめましてかな?

 君たちが竜神と呼んでいるルーペアトだよ。

 前置きはすっ飛ばして単刀直入に言うね。

 君たちは僕が加護を与えた少女エルマを蔑ろにしてきたね。

 教会は彼女が孤児であることにつけ込み王室に内緒で貴族の治療をさせ、多額の治療費を受け取っていた。

【孤児であるお前を引き取ってやったのは誰だと思っている。

 お前が治療を断れば孤児院がいくつも潰れお前と同じ身の上の子供たちが路頭に迷うことになるぞ】

と言って彼女を脅してね。

 王族はエルマの力を取り込むために彼女を馬鹿王太子の婚約者にした。

 馬鹿王太子は彼女のための予算で伯爵令嬢に宝石やドレスを買ってプレゼントし、予算が足りなくなったら公費に手を付けその罪を彼女になすりつけた。

 それから王太子の仕事を彼女にやらせていた。

 王室の使用人は【平民の孤児のくせに】と言って彼女を見下し、彼女の部屋を掃除しないし、冷えたご飯を出すし、バスタブには真冬でも水を入れた。

 平民は【平民の出のくせに俺たちの治療をしないケチ聖女】と言って彼女を罵った』」


宰相が読み上げた内容の中には俺の知らないこともあり、エルマが使用人にまで邪険にされていたとを俺はこのとき初めて知った。


俺はあいつのことに興味がなかったから。


「竜神ルーペアト様のお言葉はまだ続きます。

 むしろここからが本題です。

『僕は心優しい彼女に幸せになって欲しかった。

 だから彼女に光魔法を授けた。

 だけどその結果彼女は汚い大人に利用され傷ついただけだった。

 だから僕は彼女から光魔法を取り上げ保護することにしたんだ。

 彼女の代わりに王太子と幼い頃から両思いだった伯爵令嬢に光魔法を授けてね。

 光魔法を失ったエルマはすぐに僕が保護したから、君たちがエルマだと思って接していたのは彼女に化けた僕だよ。

 真冬の水風呂に冷えきった腐りかけのご飯。

 王太子から回された大量の仕事の処理。

 光魔法を失ったことを責める教会の関係者。

 光魔法を失った途端ゴミを見る目を向けてきた国王や大臣たち。

 それからパーティで王太子と伯爵令嬢に冤罪をかけられ、パーティに参加した貴族からは冷ややかな視線を向けられ、一部の貴族からは罵詈雑言を浴びせられた』」


宰相はそこまで読んでふーと大きく息を吐いた。







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