第8話「結婚式の翌日……破滅の足音」微ざまぁ



結婚式の翌日、寝室のドアが乱暴に開かれ、側近をぞろぞろと連れた父が入ってきた。


「きゃあっ!」


服を着ていなかったアイリーが悲鳴を上げる。


結婚式の翌日なんだ。部屋に入る前にノックぐらいしてほしい。


夫婦が寝室で何をしていたかくらい父だって想像がつくだろう。


「父上!

 部屋に入るときはノックぐらいしてください!」


「そんなことはどうでも良い!

 アイリー、そなたには聖女の力はあるのか?

 あるなら今ここで使ってみせよ!」


「父上、何を言っているんですか!

 アイリーが怪我人を治療するところを父上だって見たことがあるでしょう!?」


「余は過去の話をしているのではない!

 今この女に聖女の力があるかどうか問うているのだ!」


父は虫のいどころが悪いようだ。なにか悪いものでも食べたのかな?


「とにかく服ぐらい着させてください。

 結婚式の翌日に皆で寝室に押しかけて来るなんて失礼ですよ!」


「その女をドレスアップさせている暇などない!

 どうしてもと言うならガウンでも羽織れ!」


俺とアイリーはガウンを羽織ることを許された。


ガウンを一枚羽織っただけのアイリーも色っぽい。


俺たちはその格好でソファーに並んで座らされた。


家臣が大勢いるのに王太子と王太子妃をガウン一枚でいさせるなんて父は何を考えているんだ?


「アイリーに誰を治療させればいいんですか?

 この部屋に怪我人はいませんよ、父上」


「剣をよこせ」


父は衛兵から剣を受け取ると鞘から剣を抜き迷わず俺の左腕を斬った。


「父上! 何を……!」


左腕に激痛が走る!


「さあアイリーよ。聖女の力が使えるなら今すぐギャリックの怪我を治せ。

 浅く斬ったとはいえこのまま放置すればギャリックの左腕は使い物にならなくなるぞ」


アイリーは真っ青な顔でガタガタと震えている。


育ちの良い彼女は目の前で人が斬られるところなど見たことがないのだ。


「さあ、早く息子の怪我を治せ!」


「頼むよアイリー!

 助けてくれ!」


アイリーはガタガタと震えながら俺の腕に手をかざした。


彼女が怪我人を治療する場面には何度も立ち会ってきた。アイリーの手から光が出てたちどころに患者の怪我が治るんだ。


だがどんなに待っても彼女の手が光る事はなかった。 


「アイリー頼むよ! 真剣にやってくれ!」


俺の腕からはどんどん血が流れていく。


このままだと出血多量で死んでしまう!


「やっています!

 でも全然力が出なくて……!」


アイリーの額には脂汗が滲んでいた。


こんなに必死な彼女を見たことがない。


「もう良い。分かった。

 侍医じいよ、息子の腕を治療をしろ。

 この女は役に立たん」


「承知いたしました」


部屋の隅に控えていた医者が俺のガウンの袖を破り傷口の消毒を始めた。


「痛っ……!」


消毒薬が傷口に染みて俺は泣きそうになった。


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