第6話「光魔法の有益な使い方」
アイリーと婚約してから一カ月ほど経過したある日。
司教がアイリーに面会を求めてきた。
なんとなく気になったので俺も同席した。
司教が言うには先代の聖女のエルマは光魔法で怪我人の治療をしていたという。
あいつ王太子妃教育と王太子妃の仕事と王太子の仕事の合間にそんなこともしていたのか、初耳だ。
司教はアイリーにも聖女の務めを果たして欲しいと言ってきた。
アイリーは「王太子妃教育が忙しいから無理よ」ときっぱりと司教の申し出を断った。
「そこをなんとかお願いします」
だが司教はしつこく食い下がる。
司教はなぜこの件にここまでこだわるのか?
それにエルマが治療行為をしていたことを婚約者である俺に秘密にしていたのも引っかかる。
俺は司教が持っていた治療者のリストをひったくった。リストに書かれていたのは貴族の名前だけだった。
その時俺はピンときた。
「司教様、エルマに貴族の治療をさせ金を稼いでいましたね?
答えてください!」
司教は最初はすっとぼけていたが俺が問い詰めるとようやく白状した。
奴はエルマが孤児であることにつけ込み貴族の怪我や病気を治療をさせていたのだ。
司教は貴族から多額の治療費を受け取り半分を教会の運営資金に、残り半分を己の懐に入れていた。
エルマは両親を亡くしたあと教会で育った。
エルマは教会へ恩義があったので司教からの頼みを断れなかったのだろう。
エルマから聖女の地位を剥奪すると言ったとき教会が難色を示した理由はこれか。
「お願いしますアイリー様!
教会を助けると思って治療を引き受けてください!」
「私は生まれつきの貴族、教会を助ける義理はありません。
孤児だった先代の聖女にしていたように情に訴えてこき使おうとしても無駄ですよ」
泣いてすがる司教をアイリーは冷たくあしらった。
「そう冷たくするなアイリー。
司教様も困っているじゃないか。
光魔法を使ってぱぱっと助けやったらどうだ?」
「ですがギャリック様、このリストに書かれている人間を全員治療したら日が暮れてしまいます。
ただでさえ王太子妃教育で忙しいというのにそんな暇はありません」
「リストに名前のある人間全員を治療する必要はない。
高位貴族だけ治療すればいい」
「ギャリック様は私にただ働きをしろとおっしゃるのですか?」
「ただで治療してやる義理はない。
司教様、リストにある貴族を治療する代わりに彼らが支払った治療費の九割をこちらに回してもらいましょうか」
「き、九割も回したら教会の取り分がなくなってしまいます!
治療する貴族の数を減らすだけでも収入が減るのに」
「その時は治療費を十倍にでも二十倍にでも釣りあげればいいんですよ。
彼らは治療が必要な家族を抱えています。
こちらがいくらふっかけても提示した金額を支払いますよ。
金を払えない貴族はリストから外せばいいんです。
患者はいくらでもいるのですから」
「わかりました。
殿下のおっしゃるとおりにいたします」
「アイリーも引き受けてくれるだろう?
金があれば前のように大きな宝石のついたアクセサリーを買えるし、一流店を貸し切って豪遊もできるぞ」
「そういうことなら協力いたしますわ」
「よし決まりだ!」
「殿下、聖女様、引き受けてくださりありがとうございます。
ですが殿下、取り分が一対九というのはどうにも……」
司教との交渉の末、取り分は三対七で決まった。
もちろん俺たちが七割もらう。
公金の横領が出来なくなって懐が寂しかったんだ。いい金づるを手に入れたぜ。
これでまた高価な宝石を買い一流の店を貸し切り豪遊ができる。
王太子という身分はストレスが溜まるからな息抜きも必要だ。
それからアイリーには一日数時間、高位貴族の治療に当たらせた。
光魔法で病人や怪我人の治療するだけで大金を得られるなんて光魔法様々だな。
竜神ルーペアトもアイリーに良い能力を授けてくれたものだ。
この時の俺は目の前の大金に目がくらみ破滅の足音が近づいていることに気づきもしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます