第4話「ひとときの幸せに酔う」
だがエルマは表情一つ変えず己の悪口を言った貴族の顔を一人一人じっと見つめていた。まるで悪口を言った相手の顔を記憶するかのように。
ふとエルマと視線が合った。奴は俺の顔を見て口角を上げた。
奴のエメラルドグリーンの瞳が獲物を狩るときのトカゲのように見えて背筋がゾクリとした。
「おい、何をしている!
さっさとエルマを連れ出せ!」
「承知いたしました!」
衛兵に連行されエルマは会場をあとにした。
本当はエルマを拘束したまましばらく会場に放置し嫌というほど悪口を聞かせる予定だったのだが、予定変更だ。
薄気味の悪いからさっさとエルマを退場させることにした。
「皆、騒がせてしまったな!
今日は新たな聖女アイリーの就任祝いと俺たちの婚約祝いだ!
酒も
存分に楽しんでくれ!」
パーティ会場はまた賑わいを取り戻した。
エルマがいなくなったあと、
「王太子殿下ご婚約おめでとうございます」
「新たな聖女アイリー様に乾杯」
俺とアイリーは招待客からお祝いの言葉を浴びるほどもらった。
俺は酒も入りとても良い気分だった。
この日を境に人生が変わるなどこの時の俺は知る由もなく俺は深夜までパーティを満喫した。
そしてパーティのあとは寝室でアイリーと朝まで楽しい事をした。
アイリーとはまだ婚約中だがどうせいつかは結婚するんだし少しぐらい味見してもいいだろう?
アイリーも喜んで俺を受け入れてくれた。
平民のくせにお高く止まり指一本触れることを許さなかったエルマとは大違いだ。
あいつは娼婦の代わりにもならなかった。
翌朝……というより起きたら昼だったのだが。
薄いガウンをまとっただけのアイリーに、本当にエルマに虐められていたのか聞いてみた。
「虐めなんてなかったわよ。
でもああ言っといた方が私への同情が集まるでしょう?」
「お前もなかなか強かな女だな。
虐めていたのはお前の方なんじゃないのか?」
「やだギャリック様ったら酷い。
私はただお友達と一緒に平民出身なエルマ様に、貴族の常識を教えてあげただけよ。
『平民出身のエルマ様にはわかりませんよね〜』と嫌味を言って、皆でくすくすと笑ったことはありますけど」
「どんな常識を教えていたのやら。
パーティでエルマが反論したらどうするつもりだったんだ?」
「もともと平民出身のエルマ様は貴族に疎まれていました。
光魔法を失ったエルマ様はただの平民。
彼女があの場で何か言ったとしても誰も耳を貸すことはなかったでしょう。
新たな聖女に任命された私を敵に回してまで平民の女を庇うお馬鹿な貴族なんておりませんわ」
アイリーはそう言ってくすりと笑った。
「それにギャリック様だってあの子に横領の罪を着せたじゃないですか。
私だけ悪者にしないでほしいわ」
「見抜いていたのか?」
「ギャリック様からの贈り物はどれも高価だったもの。
それにあなたが連れて行ってくださったお店は全て五つ星クラス。
そのお金がどこから出ているのか不思議だったのです。
王太子の使える予算の額を軽く超えていましたから」
「後ろ盾のない元婚約者は良いスケープゴートになってくれたよ」
「冤罪をかけられて会場から引きずりだされる元聖女様の姿は惨めで哀れで滑稽だったわ。
私あのとき笑うのを必死に我慢していたんですよ」
「俺もだ」
俺たちは声を出して笑いあった。
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