第65話「文字を教える」

※65話からカクヨム先行投稿です!



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



Nordenノルデン は北部、 

 Ostenオーステン は東部、  

 Westenヴェステン は西部、 

 S''udenズューデンは南部。

 リヒトもシャインも物覚えがいいね」


「リック先生の教え方がいいからだよ」


「リック先生もっと教えて!

 ボク本が読めるようになりたいんだ!」


「じゃあ次はこれ。

 Hafenハーフェンは港、  

 Br''uckeブリュッケは橋、    

 Dorfドルフは 村、

 Waldヴァルトは森、    

 Weiherヴァイアーは池や沼」


僕がゼーゲン村に来て三か月が過ぎた。


僕はグランツさんの家に居候しながら、リヒトとシャインに文字を教えている。


当初はグランツさんに文字を教えてたんだけど……。


彼はガッツはあるんだけど、文字を覚えるのが恐ろしく苦手で……一か月教えても一文字も覚えられなかった。


グランツさんに文字を教えているところにリヒトとシャインが遊びに来て、二人が興味津々という顔でこちらを見ていたので、グランツさんに教えるついでにリヒトとシャインにも文字を教えてあげた。


小さな子は物覚えがいいから、布が水を吸収するように二人はどんどん文字を覚えていった。


村長さんとも相談して、グランツさんには得意の狩りに集中してもらい、文字は子どもたちに教えることにした。


リヒトとシャインは七歳で、同じ村出身のいとこ同士。


リヒトは活発な男の子、シャインはしっかり者の女の子だ。


「おっ、やってるな。 

 リヒト、シャインさぼってないか?」


グランツさんが狩りから帰ってきた。


グランツさんは手にうさぎを持っていた。どうやら狩りに成功したらしい。


「ボクはグランツさんみたいにサボったりしないよ」

「私たちをグランツさんと一緒にしないで」


「俺はサボったことはない!

 ただ……覚えられなかっただけなんだ」


グランツさんが泣きそうな顔で言った。


グランツさんは寝る間も惜しんで文字を学んだ。


ただ素質がないのか、一文字も覚えられなかった。


グランツさんにも、せめて自分の名前ぐらい書けるようにしてあげたかった。


「ふたりともそこには触れないであげよう」


「そうだぞ!

 俺をいじめる奴にはうさぎのパイを食べさせてやらないぞ!」


「「それはやだぁ!」」


「ふたりともグランツさんにごめんなさいして」


「「グランツさんごめんなさい」」


リヒトとシャインは素直に謝った。


ふたりとも真っ直ぐな性格ないい子たちだ。


「よーし! じゃあうさぎのパイを作るぞ!

 お前らも手伝え!」


「「はーい!」」


「じゃあ僕も……」


「リックは村長さんの家に行ってくれ、また領主様から書状が届いたらしい」


「はい」


僕はこの村で子どもたちに字を教える傍ら、村長さんの補佐をしている。


補佐と言っても村長さんの代わりに手紙を読んでるだけなんだけど。


村長さんは優しい人で、ハイル村の人たちにも配給日が七月ではなく七日だと教えてあげた。


「何事も持ちつ持たれつじゃよ」と村長さんは言っていた。


こういう生き方もあるんだなぁ。




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