第58話「婚約破棄とヒーロー」




そんな日々が続いたある日、ミアがびしょ濡れで元生徒会室に入ってきた。


ミアに理由を尋ねると彼女は泣きながら、

「カロリーナ・ブルーノ公爵令嬢とマダリン・メルツ辺境伯令嬢とエミリー・グロス子爵令嬢に、

『男爵家の庶子ごときが殿下や上位貴族の子息と仲良くしてるんじゃないわよ! 生意気よ!』

 って言われて、噴水に突き落とされました。

 あたしはお友達と仲良くしているだけなのに」と答えた。


ミアは今までも彼女たち三人に、教科書やノートを破られたり、体操服にインクをかけられたり、廊下ですれ違うときに足をかけられたり、色々と意地悪をされていたようだ。


でもミアは、僕たちに心配をかけないように黙っていたらしい。


なんて健気でいじらしい子なんだ!


僕はミアの話を聞いて頭に血が上った。


こんなに清楚で可憐で華奢で優しいミアをいじめるなんて! エミリーは酷い女だ!


ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢も、とんでもない悪女じゃないか!


アルド殿下もべナットも、僕と同じ気持ちだったようだ。


この時から僕たちにとって婚約者は敵となった。


彼女たちに恥をかかせ、彼女たちにとってもっとも屈辱的な方法で婚約を破棄することが、僕たちの共通の目的となった。







「カロリーナ・ブルーノ公爵令嬢!

 マダリン・メルツ辺境伯令嬢!

 エミリー・グロス子爵令嬢!

 お前たちがミアを噴水に突き飛ばしたり、階段から突き落としたり、教科書やノートや制服を破ったことは分かっている!

 ミアに謝れ!

 土下座して謝罪しろ!」


学園の進級パーティの会場にアルド殿下の声が響き渡る。


僕と殿下とべナットとミアの四人で壇上に上がり、ミアを庇うように立つ。


僕たちが壇上に上がった目的はひとつ、ミアをいじめていたカロリーナ・ブルーノ公爵令嬢、マダリン・メルツ辺境伯令嬢、エミリー・グロス子爵令嬢の三人を凶弾するためだ。


彼女たちは僕たちがどんなに問い詰めても「身に覚えながない」「冤罪です」「証拠はあるのですか?」と言って白を切っている。


彼女たちの浅ましさに辟易した僕たちは、幼い頃からの婚約者である彼女たちと縁を切る決断をした。



「「「お前のような卑劣な女とは結婚できない! お前との婚約を破棄する!」」」



僕は殿下とべナットと声を揃えて言い放った。


僕の言葉を聞いたエミリーが、ポカンと口を開け間抜けな顔でこちらを見ていた。


ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢もエミリーと同じような顔をして、壇上の上にいる元婚約者を眺めている。


このときのエミリーの顔は傑作だった。彼女を嫌っている義姉上にも見せてやりたかった。


壇上に上がったときはオドオドしていたミアも、ブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢とエミリーの間抜けな顔を見て、いつもの明るさを取り戻していた。


僕たちがこの笑顔を守ったんだ。


その日僕たちは、か弱いミアを悪女から守ったヒーローになれると本気で信じていた。


これが破滅の始まりだとも知らずに……。





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