第57話「これが庶民流の友人関係……?」




「好きよ、アルド」


「俺もだよ、ミア」


学園の空き教室。


元々は生徒会室に使われていた部屋で、部屋には机や椅子やソファーが残されていた。


部屋には鍵がかかっていたけど、アルド殿下がどこからか手に入れてきた。


第二王子の権力を使えば、空き教室の鍵を手に入れるなど造作もないことなのだろう。


放課後、アルド殿下とべナットとミアと僕の四人で、この部屋で過ごすことが増えていた。


アルド殿下とミアが長椅子の上で抱き合って、口づけを交わしている。


はじめは重ねるだけのキスだったが、徐々に深くなり……。


今二人は、ちょっと僕の口では説明できない状態になっている。


ミアと出会って一カ月が過ぎた。


ミアは「仲良しの証よ」と言って、僕やべナットにもキスしてくれるようになった。


だけど四人でいるときはアルド殿下がミアを独占するので、僕とべナットはなかなかミアとキスできない。


そうこうしている間に、下校の時間を告げる鐘がなってしまった。


「今日はここまでだね!

 また明日アルド」


「ああ、また明日ミア」


殿下は鼻の下を伸ばしながら、そう言って帰って行った。


殿下に続いてべナットが部屋を出ていく。


僕が部屋を出るとき、ミアが僕のポケットに何か入れた。


「また明日ね、リック」


ミアはそう言って、僕にウィンクをして帰って行った。


皆が帰ったあと、ポケットの中を見ると一枚の紙が入っていた。


「リックへ

 明日の自習時間、図書室で待ってるわ。

 ミア」


紙にはミアの字でそう書かれていた。


明日、僕のクラスとミアのクラスは同じ時間に自習がある。


僕はそのメモを読んだとき、胸の高鳴りが抑えきれなかった。


その夜は、ソワソワしてなかなか眠れなかった。


これで殿下とべナットを出し抜ける!


翌日の自習時間に図書室に行くと、ミアはすでに来ていた。


授業中のためか、他に利用者はいないようだ。


「奥に行きましょう」


彼女はそう言ってボクの手を掴み、図書室の奥へと僕を引っ張って行く。


誰に見られるか分からないから、やましいことをするならよりひと目のない場所がいいということか。


ミアに導かれるまま、僕は図書室の奥へと進んでいく。


図書室の一番奥、歴史書の並ぶコーナーに着くと、ミアは僕に抱きついてきた。


「本当はリックとももっとこういうことしたかったのよ。

 でもアルドが離してくれなくて……」


「分かってるよミア。

 相手は第二王子だ。

 彼に迫られたら君は拒めないよね」


僕はミアの立場に理解を示す。


「リック……キスして」


その言葉を僕はずっと待っていた。


僕はがっつくようにミアの唇に自分の唇を重ねた。


本当は……庶民が友達同士でキスする風習がある……という話を心のどこかで疑っている。


学園にはミアの他にも平民が通っているが、彼らが友人同士で口づけしているところを見たことがない。


僕たちだって人前でキスしないから、彼らももしかしたら隠れて口づけしているのかもしれない。


そもそも僕は、兄上と義姉上がキスしている現場すら見たことがない。


婚約者同士の二人でさえ、せいぜいお互いの頬にキスをしあう程度の仲だった。


でももしかしたら兄上たちもふたりきりの時には、口づけを交わしていたのかもしれない。


今の僕とミアのように……。


でもその理論だと、僕とミアは友達を超えた関係だということに……。


ミアが深い口づけを求めてきて、そんなことはどうでも良くなってしまった。




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