第46話「償いと浄化の旅・2-3」三章・番外編





そんな訳で、王太子殿下の婚約者になってからと言うもの、アン様から執拗な嫌がらせを受けている。


新しいワンピースを着た日に頭からワインをかけられたり、

王妃様とのお茶会に大遅刻をすることになったり、

半日納屋に閉じ込められたり、

嘘の礼儀作法を教えられ、大勢の前で恥をかかされたり……。


アン様にされたことを上げれば、きりがない。


一番ひどかったのは、王太子殿下から贈られたドレスをアン様に破かれたことだ。


それをわたくしが「王太子殿下から頂いたドレスはセンスが悪すぎて着れませんわ!」と言いながら破いたことにされ、その噂を聞いた王太子殿下から殴られた。


王太子殿下に、

「婚約者の義務だからドレスを贈ってやれば、『センスが悪い』と言って破いたそうだな! お前は顔だけでなく心まで醜い!」

と罵られた。


王太子殿下からのわたくしに対する信用は元から少なかったが、この一件で地の底まで落ちた。


わたくしは公爵令嬢ほど美人ではないが、醜くはないと思う……王太子殿下にはとても言えないが。


殿方に大声で怒鳴られると萎縮してしまうわたくしには、「申し訳ありません」と言って、ひたすら頭を下げることしかできなかった。


お父様やお母様からは、

「何をやっているんだ! なぜ王太子殿下のお心を掴めない! お茶会に遅刻したり、礼儀作法を間違えるなどたるんでいる! 真面目にやれ!」と毎日叱れている。


殿下に殴られた日も「お前が殿下の気に障ることをしたからだ!」と罵られました。


それでもまだ学園に入る前はマシでした。


学園に入学する前は、王太子妃の教育がメインで王太子妃の仕事は少なかったから。


学園に入力したら、王太子妃の教育に学園の授業が加わり、放課後は生徒会の仕事と、王太子殿下の宿題もしなくてはいけないのよね。王太子妃の仕事も本格的に始まるし、気が重いわ。


学園に入学してすぐ、王太子殿下は一年生から生徒会長に、アン様は生徒会副会長に選ばれた。


王族や王家の血を引くものは一年生から生徒会に所属するのが習わし。


ちなみに、わたくしは生徒会に入ることすらできなかった。


本来は、王太子の婚約者も一年生から生徒会に入るのだが……伯爵家の者が王太子の婚約者になったことで、アン様以外の上位貴族からもやっかみを受けていたのだ。


わたくしは王太子妃教育、王太子妃の仕事、王太子殿下の仕事と生徒会の仕事、自分の学園の宿題と殿下の学園をこなさなくてはならない。


朝四時に起き、

予習復習を済ませ、

ご飯を食べ、

六時には家を出て学園についたら真っ直ぐに生徒会室に向かい生徒会の仕事をこなし、

昼間は学業に勤しみ、

放課後はまた生徒会の仕事をこなし、

それが終わったらお城に行って王妃教育を受け、

その後は王太子と王太子妃の仕事をこなす。


全てを終えて家に帰るのは夜十一時過ぎ、

帰宅後遅い夕食を食べ、

二人分の宿題を終わらせて、

お風呂に入って寝る頃には深夜二時過ぎていた。


一日平均、二時間睡眠でスケジュールをこなしていた。


わたくしは生徒会に所属していないことになっているので、生徒会の仕事をこなしてから登城すると、

「なぜこんな遅い時間に来るのですか! 学園で遊んでいるのですか! たるんでいますよ!」

と王太子妃の教育係に怒られる。


休日も王妃教育を受け、王太子と王太子妃の仕事をするためにお城にいかなくてはいけない。


休日の間に、平日の仕事の遅れを取り戻さなくてはいけないのだ。


わたくしが必死に働いている間、殿下はアン様と遠乗りに出かけたり、ショッピングをしたり、お茶会を開いたりして楽しく過ごしている。


「なぜあなたはなぜいつもそんなに疲れた顔をしているのですか?

 生徒会にも所属していないのに、いつも王太子妃教育に遅れて来ますし、肌にハリもなく、顔色も良くない。

 殿下とアン様は生徒会に所属していながら、いつも優雅に過ごしていらっしゃり、肌の艶も良いというのに。

 やはり伯爵家程度の娘では王太子妃は務まらないということかしら?

 近親結婚が続いたとしても、優秀なアン様を殿下の婚約者に据えるべきでした。

 今からでも陛下に進言しなくてはいけませんね」


事情を知らない教育係の先生にそう言われた。


アン様が殿下の婚約者になればこの生活から開放されるのかしら?


いえ、結局お二人に仕事だけ押し付けられそうだわ。


それに殿下との婚約を解消されたら、父に殺されてしまう。


「聞いておりますの! デルミーラ様!」


「はい、聞いております。

 全てわたくしの不徳の致すところです。

 申し訳ありません」


教育係の先生への口答えは許されない。


わたくしには、先生に叱られる度に頭を下げることしかできなかった。



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