第47話「償いと浄化の旅・2-4」三章・番外編




そんな、生活を続けること二年半……。


あと半年で学園を卒業するというとき、事件は起きた。


その日は新生徒会長が誕生し、三年生が生徒会を引退する日だった。


二年半の間、殿下は殆ど生徒会室に訪れず、全く仕事をしていなかった。


生徒会の仕事の引き継ぎはわたくしがした。


新生徒会長に決まったのは、二年生で侯爵家の嫡男の生徒。


彼は元々は生徒会書記だった。


彼が生徒会に入ってくれたおかげで、この半年生徒会の仕事がとても楽だった。


彼がとても仕事ができる人だというのもあるが、彼はわたくしを伯爵家の娘だと見下すことなく、他の生徒会のメンバーと同様に扱ってくれたのだ。


わたくしの抱えている仕事を手伝ってくれたり、仕事の合間にハーブティーを淹れてくれた。


時々、アップルパイやクッキーを差し入れしてくれた。


彼はわたくしの心の支えだった。


彼がいなかったら、とっくにオーバーワークで倒れていた。


だから彼には心から感謝している。


わたくしは今までお世話になったお礼をかねて、生徒会室を綺麗に掃除しようと、朝早くから生徒会室を訪れていた。


ロッカーから掃除用具を出したまでは良かったが……ほうきを手にしたとき、目の前がくらくらと回っている不思議な感覚に襲われた。


もしかして、先月からアン様の宿題と裁縫と刺繍の課題を押し付けられて、睡眠時間が一時間減ったのが原因かしら?


それとも、昨日アン様に池に突き落とされたせいかしら?


それとも、一昨日殿下に噴水に突き飛ばされたせいかしら?


それとも、三日前にアン様と殿下にジュースを頭からかけられたせいかしら?


原因はわからないけど、目に映る景色がゆらゆらと揺れている。


「ああっ…………」


と思ったときにはもうダメだった。


わたくしは足元から崩れ落ち、倒れたとき運悪く机の角に頭をぶつけ……死んだ。








『よく耐えたね。

 君の償いと浄化の旅は終わったよ。

 ご褒美をあげよう。

 君の死んだ後の世界がどうなったのか気になるよね?

 特別に見せてあげるよ』


今回も神様の声が聞こえた。


えっ……? 今回……?


以前もわたくしはこの声を聞いたことがあるのかしら?







わたくしは透明な体になって生徒会室を見下ろしていた。


机の横にはわたくしの抜け殻が横たわっている。自分の遺体を上から眺めるというのも不思議な気分だわ。


わたくしの死後、生徒会室に入ってきたのは意外にも殿下とアン様だった。


新生徒会長への引き継ぎの儀式があるので、彼らがこの日に限って朝早くに学園に来ていたとしても不思議はない。


「おい、デルミーラ!

 お前に任せておいた宿題はどうなっているんだ!

 朝一番に俺のところに届けろと言っただろ!」


「私が頼んだ裁縫と刺繍の課題はどうなりましたか?

 今日が提出の期限日ですのよ!」


ですがどうやら、儀式の為に生徒会室を訪れたのではないようです。


『殿下、アン様』


彼らは目の前にいるわたくしをすり抜けて行った。


どうやら彼らの目にはわたくしは見えないし、わたくしの声も届いていないようだ。


「おい! そんなところで寝ている場合か!」


倒れているわたくしを見た王太子殿下が、わたくしの体の脇腹のあたりを蹴り飛ばした。


体から魂が抜けているので蹴られても痛くはありませんが、それでも己の亡骸を蹴り飛ばされるのは不快です。


「おい、どうして何も言わない!

 返事ぐらいしろ!」


王太子殿下が再度、わたくしの亡骸の脇腹のあたりを蹴り飛ばした。


結構強く蹴っているように見えるので、生きていたら痛みで悶絶していたことでしょう。


「殿下、何か変ですわ。

 この子ピクリとも動きませんもの……」


「まさか、死んでいるとでも言うのか?

 寝た振りをしているだけだろ!?

 おい、デルミーラ起きろ!」


王太子殿下がわたくしの髪を掴み、わたくしの頭を持ち上げる。


「おいっ!

 聞いているのか!?」


しかし、わたくしの亡骸は当然反応しない。


わたくしの亡骸の白目と殿下のし線がかち合った。


「ひっ……!」


殿下がわたくしの髪から手を離し、尻もちをつく。


「し、死んでるのか……!?」


白目をむいたわたくしの亡骸を見て、殿下はようやくわたくしの死んでいることに気づいたらしい。




☆☆☆☆☆☆




少しでも面白いと思ったら、★の部分でクリック評価してもらえると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る