第45話「償いと浄化の旅・2-2」三章・番外編






王太子殿下にはアン・シュンデン公爵令嬢という幼なじみがいた。


アン様のお母様は国王の妹、つまり殿下とアン様はいとこ同士にあたる。


アン様のお母様と王女様はとても仲が良く、アン様は幼い頃から王太子殿下と結婚できるものだと思い込んでいたらしい。


しかし前国王陛下も現在の国王陛下も、はとこ同士で結婚している。


国王陛下は近親結婚が二代続いたことを危惧し、王太子殿下の婚約者は血縁関係にない国内の貴族から選ぶ事に決めたのだ。


公爵家、辺境伯家、侯爵家は、何代か前に王子が婿養子に入ったり、王女が嫁いでいるので除外された。


伯爵家以下の貴族で、王太子殿下と同じ年頃の娘がいる家から選ばれることになった。


とはいっても、王妃となる者の身分があまりにも低いと困る。


候補の中から男爵家と子爵家が除外され、伯爵家だけが残った。


王太子殿下の婚約者候補は、わたくしの他に二人いた。


三人の候補者は、家柄も容姿も成績も似たりよったりだった。


国王陛下の発案で、誰を選んでも差異がないなら王太子に選ばせようということになった。


王太子殿下は婚約者選びに乗り気ではなく、婚約者をあみだくじやダーツやサイコロで決めようとしていたらしい。


そのことを知った父が王太子殿下に「当家の娘を婚約者に選んでくださるなら、娘を馬車馬のようにこき使っても構いません!」という言葉をささやいた。


その言葉が王太子殿下の心に響き、殿下はわたくしを選んだそうな。


本当に父は余計なことをしてくれたと思う。






わたくしが王太子殿下の婚約者に選ばれた経緯を当然アン様もご存知だ。


近親結婚を避けようとして、伯爵家のわたくしが王太子殿下の婚約者に選ばれた。


だからわたくしを排除しようと、殿下のいとこであるアン様が殿下の婚約者に選ばれることはない。


しかし、アン様はそうとわかっていても納得できないらしい。


それというのもアン様は学園を卒業後、遠い小国の王太子との婚約が内定しているからだ。


アン様は異国に行くのも、小国の王太子と結婚するのも嫌なのだ。


だからアン様はわたくしを排除し、王太子殿下の婚約者になり、ゆくゆくはこの国の国母になろうと画策している。


王妃にはアン様がなり、わたくしは側室になる……という方法もある。


アン様は王太子殿下の寵愛を受け、わたくしは仕事&子作りをする……そのへんが落とし所の気もするが、アン様も父もそれは許さないだろう。


アン様は側室も妾も置きたくないそうだし、父は何が何でもわたくしを王妃にして、この国の実権を握りたいのだ。


好きでもない相手と結婚し、馬車馬のように働かされる未来が待っているのだ。


子供を生まなくてはならないなら、我が子の将来の為にも嫡子にしたい。


側室から生まれたら、子供は庶子として扱われ、苦労することが目に見えている。それは避けたい。


わたくしも、父に似て欲深いのかもしれない。



☆☆☆☆☆☆




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