第33話「拒絶される」
「確かに当店の商品は私がデザインしています。
刺繍もほとんど私がしています。
だからこの店の商品は我が子も同然なのです。
あなたのような転売してお金を儲けることが目的な方には売りたくありません。
お引き取りください」
エミリーは真っ直ぐに背筋を伸ばし、毅然とした態度でそう言った。
「言わせておけば……!
あなたそんな偉そうなことが言える立場なの!」
わたくしは立ち上がり彼女を睨みつけた。
「ザロモン侯爵家が傾いたのは誰のせいだと思っているの!?
愛し合っていたわたくしとフォンジーが婚約を破棄することになったのも、わたくしが侯爵夫人になれなかったのも、事情があったとはいえ婚約破棄して値打ちの下がったわたくしが公爵家とはいえ後妻に入らなければなかったのも、元はと言えば全部あなたのせいじゃない!
あなたがリックの思惑をあんな形で暴露しなければ、ザロモン侯爵家はダメージを受けずに済んだのよ!
ザロモン侯爵家が傾かなければ、善人を絵に描いたような性格のフォンジーが、人々に頭を下げて回ることもなかった!
わたくしはフォンジーと結婚して幸せに暮らしていた!
わたくしが今ここで苦労しているのは全部あなたのせいよ!!
あなたはリックを捕縛して、彼の悪事を明るみに出し、彼との婚約を破棄して、噂から逃げるように隣国に留学して、それで終わった気になっているようだけど、実際は違うわ!
次期当主のフォンジーはあの国から逃げられなかった!
リックに対する非難は、侯爵家を継いだフォンジーが浴びたの!
あの事件は十五年経過した今でも尾を引いているのよ!
幸せになったのはあなたとグロス子爵家だけ!
あなたはあなたが不幸にした人たちに目を向けずに逃げたのよ!
結局あなたは自分が可愛いかっただけ!
エミリー、あなたは自己愛の強い偽善者よ!!」
一気にまくしたてると、エミリーは苦しそうに顔を歪めた。彼女の顔は心なしか青ざめて見える。
幼い頃わたくしに意地悪をされたエミリーは、そんな顔をして部屋の隅で泣きべそをかいていた。
あなたのその苦痛に歪んだ表情が見たかったのよ。
少しだけ溜飲が下がったわ。
「わたくしの人生をめちゃくちゃにしたのはあなたよ!!
責任を取りなさい!!
悪いと思うなら、さっさとわたくしと独占契約を結びなさい!」
これで独占契約は確実になったわね。
もうひと押しすれば慰謝料も請求できそうだわ。
「おっしゃりたいことはそれだけですか?」
なのにエミリーはすぐに平静を取り戻し、すました顔で事務的にそう言った。
「シーラッハ公爵夫人のおっしゃったことには、いくつか事実と違う点がありますね。
私も人を使って調べたので、あなたと身の回りで起きていることを知っているのですよ」
「私の周りを嗅ぎ回っていたの!?」
「フォンジー様のお人柄を証明するためには必要なことでしたので。
まず、私があなたとフォンジー様の婚約を壊す原因になったとおっしゃいましたが、
あなたは十五年前、本当にフォンジー様を愛していらしたのですか?」
「な、なんですって?」
「あなたが本当にフォンジー様を愛していたのなら、十六年前フォンジー様が領地に赴き復興事業に携わられているとき、あなたもフォンジー様について領地に行かれたはずです。
十六年前の時点であなたは学園を卒業されていたのですから、婚姻前でもそのくらいの自由はきいたはずです。
ですがあなたは王都に残り、着飾ってパーティに参加していた。
パーティのあと婚約者以外の殿方と何をしていたか、私が知らないとでも?」
「うっ、それは……」
あのとき王都で毎夜違う男と遊んでいた事をなんでこの子が知ってるのよ!
全員に口止めしたし、うまくやっていたはずだったのに……!
「それにフォンジー様を愛していたのなら、十五年前、ザロモン侯爵家が窮地に陥ったときに見捨てるのはおかしいです。
フォンジー様を愛していたのなら、彼と結婚して、夫婦で取り引き先に赴き、二人で頭を下げて回るべきでした。
現ザロモン侯爵夫人がそうしたように」
「くっ……!」
なんでわたくしがザロモン侯爵家の不始末の責任を取って、コメツキバッタのように知らない人たちに頭を下げて回らなくてはなりませんの!
絶対に嫌ですわ!
「それからフォンジー様を愛していらしたなら、彼との婚約破棄後、彼の人格を否定するような発言を繰り返していたのはおかしいです。
しかもあなたがフォンジー様について流した噂の大半は嘘だった」
「っ……!」
そんなことまで調べていたなんて……!
「最後にあなたは望んでシーラッハ公爵の後妻に入り、公爵家の名声と富を使い、楽しく暮らしておられたのではないのですか?
あなたが被害者だとはとても思えません。
あなたが今回窮地に陥っているのは、過去の男遊びや、同情をひくためにフォンジー様を貶めたことや、プライドを満たすために下位貴族を虐めていたことが原因です。
今までのことを周囲に知られ、シーラッハ公爵に離婚を迫られているのを私のせいにしないでください。
身から出た錆、自業自得です」
「くっ……、下位貴族のくせに生意気よ!」
わたくしはティーカップを手に取り、エミリーに投げつけようとした。
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