第20話「第三の選択肢」
今まで世間に同情されるなんて悲惨だ、そんなふうに惨めに落ちぶれたくないと思っていた。でもこれは案外使えますわ。
この機に何かできないか考えていたとき、またまたリックがやらかした。
リックがグロス子爵家に乗り込みエミリーに、
「愛人を囲うから金を出せ。愛人と暮らすための別邸を建てろ。婿養子だから子作りにだけは協力してやる。お前みたいなブスが僕の優秀な遺伝子を受け継いだ子供が授かるんだ! 幸運に思え!」
と言ったらしい。
そのことで彼が男爵令嬢の魅了魔法にかかっていたのが嘘だとバレたのだ。
芋づる式に第二王子とリンデマン伯爵令息が嘘をついていたことがバレ、裏で糸を引いていた第二王子の母君は失脚。
リックと第二王子とリンデマン伯爵令息には重い罰がくだされた。
成績優秀なリックは将来大物になると思っていたけど……所詮はテストの点が良いだけの世間知らずのおこちゃまでしかなかったのね。
当初の予定ではフォンジーとの結婚後、仕事は勤勉なフォンジーに任せ、わたくしは社交に精を出し、フォンジーの留守に見目の良いリックを呼びつけて火遊びをしようと思っていた。
凡庸なフォンジーより優秀なリックの遺伝子を引き継いだ方が子供も幸せになれる。
フォンジーとリックは実の兄弟だから、リック似の子供が生まれても隔世遺伝だと言ってごまかせる。
平凡な容姿のフォンジーより美少年のリックに抱かれたかった。リックだって平凡な容姿で貧相な体つきのエミリーなんて抱きたくないはず。
そう思っていたのに、まさかリックがこんな大ポカをやらかすなんて……。
彼に手を出さなくて正解でしたわ。あんな使えない子の遺伝子はいりませんわ。
リックがエミリーに「愛人を囲うから金を出せ。愛人と暮らすための別邸を建てろ。婿養子だから子作りにだけは協力してやる。お前みたいなブスが僕の優秀な遺伝子を受け継いだ子供が授かるんだ! 幸運に思え!」
と言ったことにより、世間の批判はリックを育てたザロモン侯爵夫妻にも及んでいる。
「ザロモン侯爵家では子供にどんな教育を施しているんだ!」
「ザロモン侯爵家にはまともな人間はいないのか!」
ザロモン侯爵家の信用は地に落ち、ザロモン侯爵は魔術師団長の職を辞し、侯爵家は大きく傾いた。
わたしは父に呼び出され、
「リックの失態により、ザロモン侯爵家が同情されていることに便乗し事業を拡大した当家にも批判が集まっている。
ザロモン侯爵家に嫁ぎフォンジーと共に
フォンジーの婚約者であるお前が真摯に反省している姿を見せることで、当家の負ったダメージの軽減を図るんだ」と言われた。
修道院に入り、女としての楽しみを捨てるなんてもっと嫌だわ!!
わたくしは父に、
「フォンジーとの婚約を解消します。
ですが修道院に入るつもりはありません。
フォンジーの婚約者であるわたくしに世間は同情的です。
それを利用して、ザロモン侯爵家とは比べ物にならないくらい良い嫁ぎ先を探しますわ」と言った。
リックがエミリーに言った言葉に、世間の怒りが集まっているのなら、それを利用すればいい。
フォンジーはリックと違い慈悲深く良心的な性格の常識人だ。だが世間の人々はそんなことは知らない。
世間はリックの実の兄であるフォンジーも、リックと同様に非常識な考えを持っていると思い込んでいる。
エミリーやグロス子爵はフォンジーの性格や思考を知っている。
エミリーは世間の噂から逃げるように、隣国に留学してしまった。
リックに酷い目に合わされたグロス子爵が、ザロモン家に手を差し伸べるとは思えない。
わたくしが涙ながらに、
「実を言うとわたくしもフォンジーに長い間虐待されておりました。
彼は善人の皮を被った悪魔です。
でも格上の侯爵家との婚約だったので、今まで誰にも相談できず……婚約を破棄することができなかったのです!」と訴えれば、みんなわたくしの話を信じて同情してくれるはずだ。
わたくしは領地にいるフォンジー宛に、
「リックが婚約者のエミリー嬢にしたことを聞いたわ。
『愛人を囲うから金を出せ。愛人と暮らすための別邸を建てろ。僕の遺伝子を受け継いだ子供が授かるだけ幸運だろ』
と言ったそうですね?
ザロモン侯爵家では子供にどういう教育をしているの?
最低ね。
悪いけど、子供にそんな教育をする家と婚姻は結べないわ。
あたしたちの婚約は破棄しましょう」
と記した手紙を送った。
社交界での危険な恋を知ったわたくしは、真面目なだけが取り柄のフォンジーでは満足できなくなっていた。
フォンジーは絶対に童貞だ。夜の運動も下手に決まっている。
美形な弟ももういない。リックを手懐けて火遊びする計画もぱぁ。
わたくしの浮気が原因で婚約破棄をすると侯爵家に多額の慰謝料を支払わなくてはならない。
しかし、今回ザロモン侯爵家が信用を失ったことで慰謝料を払わずに婚約を破棄できそうだ。
この状況で一方的に婚約破棄を突きつけても、貴族院も意義は唱えないでしょう。
フォンジーとの婚約を破棄し、晴れて自由の身となったわたくしは、新たな婚約者を見つけるべく社交に力を入れた。
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