第17話「下位貴族は地べたに座り泣いているのがお似合いよ」



ある日ザロモン侯爵家のお茶会に行くと、フォンジーもリックも、エミリーから刺繍入りのハンカチをもらってニコニコしていた。


どうやらハンカチに刺繍したのはエミリーらしい。


その上、お茶に出されているクッキーやマフィンを作ったのもあの女だという。


ふたりともエミリーから贈り物をされてデレデレしちゃって……!


これだから下位貴族の娘は嫌ですわ! 物で人の心を掴もうとするなんて最低の行為です!


ちょっと前まであの二人にちやほやされていたのはわたくしだったのに……!


悔しい……! あんな地味な子にわたくしの居場所が取られるなんて許せない!


見てなさいエミリー・グロス! 目にもの見せてやりますわ!


それからわたくしはエミリーの好感度を下げる計画を練った。


お茶会の次の週はリックの誕生日だった。


エミリーはリックに魔導書を送っていた。


それはアブト伯爵家でも簡単には用意できない貴重な本だった。


リックはエミリーからプレゼントを貰ってニコニコとほほ笑んでいた。


本当に下位貴族の娘は卑しいですわ! お金で人の心を掴むのに長けていますね!


エミリーはフォンジーには刺繍入りのハンカチを送っていた。メイドに頼んでハンカチを持ち出してもらい、裏でこっそり切り刻んでおいた。


リックと婚約しておきながら、わたくしの婚約者にまで色目を使うなんて最低ですわ!


ハンカチと同じように、エミリーとリックの仲をズタズタに切り裂いてあげますわ!


跡継ぎ教育を受けたフォンジーは人の言葉に簡単に左右されませんが、次男で跡継ぎ教育を受けていないリックは、わたくしの言いなり。


ちょっと印象を操作すれば、エミリーのことなんかすぐに大嫌いになりますわ。


わたくしはリックの誕生日の翌日、ザロモン侯爵家を訪れた。


リックは分厚い本を抱えてニコニコしながら、

「義姉上! エミリーから誕生日プレゼントに珍しい魔導書をもらったのです!

 かなり前に絶版になっていてなかなか手に入らないものなのですよ!

 エミリーが子爵に頼んで遠い異国の地から取り寄せてくれたのです!」

と言って本を自慢してきた。


気難しいリックを高価な品で手懐けるなんて、金儲けだけが得意な子爵の娘がやりそうなことですわ。


「リック、知っているかしら?

 エミリーはあなたのことをこう言っていたのよ。

『貧乏貴族の令息を手懐けるのは、犬を手懐けるより簡単だ。骨の代わりに物をやればしっぽをふって飛びついてくる。奴らはそこらの野良犬より卑しい』って。

 きっとその魔導書もリックの心を得るための道具なのね。

 純粋なリックの心をもて遊ぶなんて酷い女だわ」


その瞬間、リックの顔から笑顔が消えた。


リックは持っていた魔導書を床に叩きつけ、思い切り踏みつけた。


「あの女、心の底では僕を馬鹿にしていたのか! 許せない!!」


リックは思い込みが激しいから、プライドを刺激すれば簡単に操れる。


実の姉のように慕っているわたくしの言葉を簡単に信じた。


それからリックはエミリーに冷たく当たるようになった。


エミリーには常に塩対応、彼女とのお茶会やデートをすっぽかし、彼女から貰ったプレゼントは売るか捨てるようになった。


フォンジーが二人の仲を取り持とうと必死になっていたが、一度エミリーから離れたリックの心は彼女の元に戻らなかった。


婚約者のリックに冷たくされて、泣きべそをかいているエミリーを見るのは爽快だった。


下位貴族は上位貴族に蔑まれ、ぞんざいに扱われ、地べたに座って泣きべそをかいてるのがお似合いなのよ!


エミリーの泣き顔を見て、わたくしはようやく溜飲を下げることができた。


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