2000文字恋愛小説

桃瀬 凛歩

君と交わした約束を私はまだ覚えている

君と交わした約束を、私はまだ覚えている。

【プロローグ】

あの日の君との約束は今も私を縛り付けている。

あの約束のせいで私は苦しむ。

あの約束のせいで私は泣き、悩み、苦しみ、そして……。

あの日の君との約束のおかげで僕は今、ここにいる。

あの約束のおかげで僕は笑う。

あの約束のおかげで僕はくじけず、めげず、立ち直り、笑い、そして……。

3年前の約束が今、歯車を再び回しだす。

 【本章】

川沿いを歩いて足がもつれる。体制を整えながら汗をぬぐった。川の水を汲みペットボトルにいれてタオルを川に浸し、ふぅと息をつく。キャンプで楽しむ友達を横目に私は一冊のノートを取り出した。幼いころの思い出の写真が姿を現す。気を緩ませると涙がこぼれるので歯を食いしばりながら。キキョウの花がそよそよとゆれ、目じりにたまっていた涙が横にすっとなびきそのまま下に流れる。あんな風に友達と過ごしたのはいつのことだったか。私は立ち上がり、背をむけた。頼むからそんなに嬉しそうに声を上げないで。気づくと駆け出していた。フードを重くかぶって下を向きながら。

私は小柴 桜。約一日、はたから見れば家出のようなことをしている。幼馴染で初恋の相手に会うために。かれは小学校五年生の時に引っ越してしまったからもうかれこれ三年あっていないということになる。三年後に皐月川でまた会う約束をした。君のために私は足を引きずって歩く。親はきっとさがしているだろうから顔を隠してマスクをしてひっそりとしながら進む。多分1日しか家出していないから捜索隊は出ていないはず。イメージはいるかいないかわからない空気未満の存在。皐月川は歩いて20分ほどのところにある。もう1日も皐月川にいる。森からは離れて、でも親の捜索には見つからないように。細心の注意を払っていた。約束の日は明日。隠れ家のように使っている小さなテントにのそのそ入る。家出するときにこっそりもってきたのだ。ただ持ち運び用とあってずいぶん小さい。寝るときは安全のためにぎやかな家族のそばに移動した。いよいよ明日だ。その日はなかなか寝付けなかった。

私は朝、自分のお腹の音で目が覚めた。そういえば昨日は昼ご飯から何も食べていなかった。持ってきたポテトチップスを一袋食べ五百mlのペットボトルを半分のむ。重い足を引きずり川に入ると体を洗い流した。きっと川も汚いのだろうが体のあちこちに泥がついている今となってはそんなことは関係ない。優しく体を洗い持ってきたタオルで体をふくと髪をおさげにしばった。私はもうじっとしていられなくてうろうろゲートをうろつく。すると彼のような面影の少年が入口付近にいるのを見つけた。高鳴る心を抑えながら私はほおを紅潮させた。しかし直後母のものと思われる車が入ってきた。私は草陰に隠れ、じっと車が通りすぎるのを待った。と、私の横を黄色いものが横切った。あ!思ったときにはもう遅かった。蜂に手の甲を刺されてしまったのだ。不幸は不幸を呼ぶというが本当にそうだ。やけに大きいこの蜂がスズメバチだとわかった時には意識がもうろうとしていた。スズメバチはこんなに猛毒性だったのかと無駄なことを考えているうちに彼は私の前を通り過ぎようとしている。

「あ……ああ。」

私はかすれた声を出した。彼は振り向き驚いたような顔になった。すぐさま管理人を呼ぶと私の手当てをし始めた。彼は去ろうとして荷物を持った。

「いってしまうの?」

彼は振り向いていった。

「お前は桜だろ。約束したからここに来たんだよな。俺も約束だからここに来た。ただ俺はお前にもう会いたくないんだよ。今日はそのことを伝えるためにここに来た。」

「なんで……。」

思わず涙が出そうになる。

「お前が俺のことを嗅ぎまわってるのは知っている。不愉快気回りない。もう近づくな。」

「……そんな。」

確かに連絡先とかしるためにいろんな人に近づいたけど。そんな。おもわず泣きかけた。彼はそんな私を置いて出ていった。急にあたりが騒がしくなり母にばれたことを悟った。すべて終わったんだな。もう何もかも。

「桜! 」

母が入ってきた。でも叱るどころか泣くだけで嗚咽を漏らしながら一冊の本をわたした。彼の字で私と離れてからの日記がつづられていた。そして最後のページには謝罪が書かれていた。

「ごめん、桜にこうでも言わないと伝わらないと思ったんだ。いつまでも俺にとらわれずにもっとほかのことに踏み出してほしくて。おもえばあの日約束なんてしたのが悪かったよな。つらい思いをさせてごめん。」

私も母と一緒に泣き出していた。嗚咽も鳴き声も君に届くことはないのだろうか。私はまだ知らない。初めのページの読み飛ばしたメモには深い愛のメッセージが綴られていたことを。

「君のことを思うとなんだってできる気がする。君のためにならなんだってする。

それだけ君が好きでそれだけ君が大切で。大好きだよ。」

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