第9話 ニャル 天国?
ニャルの名前はニャル。
元居た町からリゾート村へ向かって旅をして、神様に出会ったの!
そんな神様のあとを追いかけると、そこには立派な壁があった。
2つある門の片方から入ると、そこには建物なんかはなかった。
だけど、石畳みの道の端には雪が降るほど寒いのに花壇に綺麗な花が咲き乱れていたの。
わぁ、きっとこれは神様の力だな、うん。
ふいに、お耳がムズムズした。
「みゃっ!」
お耳の一部を指でシュバッとつまむ。
そうして、指を開くと、憎きダニがいたの!
「こいつ! むむっ!」
でも、そのダニは苦しんでいて、やがてボロボロになって消えちゃった。
ほえっと首を傾げていると、神様が立ち止まって言ったよ。
「この先は有害なノミやダニが入れないようになっているんですよ。魔吸シラミなどを持ち込まれると面倒ですからね」
ニャルはコクコクと頷いた。
シラミは本当にダメなの!
シラミなんて貰ったら、『小虫殺し』を使える魔法使いを探して治療して貰わなければ、お仕事にも行けなくなっちゃう。
特に魔吸シラミなんて流行ったら、町は大騒ぎなんだから。
「この壁の中ではそう言った生物を殺す魔法など、様々な魔法が常に発動しています」
ほえー、猫獣人には夢みたいな話。
やっぱり神様なんだ……。
そんな説明を受けているうちに、ニャル達の前に大きな門が現れた。
でも、何もないところに置いてある。それに門の表面に青い膜みたいなのが張ってる。変なの。
「さあ、ついてきなさい」
そう言って、神様は青い門の中に入っていった。
ニャル達も慌ててそのあとを追ったよ。
そうしたら、お耳が凍っちゃうほど寒かったのに、いきなりむわりと暑くなったの!
「みゃ、みゃー……」
ニャルの口から赤ちゃんみたいな猫っ気が出ちゃうけど、仕方ないよね。
だってね。
ニャルはいつもお祈りしてたの。
ミャムムを連れて行かないでって。
でも、それができないのなら、ミャムムと一緒にニャルも連れていってって。
全部わかったよ。
ここは天国だったんだ。
だから、ニャルの口から猫っ気が出ちゃっても仕方ないの。
なんで天国だってわかるって?
見ればわかるよ。
壁に囲まれた敷地の中にいたのに、遠くには向こう岸が見えないほどすんごく大きな川もあるし、その手前にある町は今まで見たどの町よりも綺麗なの。
こんなの、天国以外にないよ。
「ようこそ、リゾート村へ。よく3人でここまでたどり着きましたね」
神様はそう言うと、抱きかかえていたミャムムを降ろした。
ミャムムはニャルのところに来て、手を繋いだ。
「天国はリゾート村って名前?」
ニャルはピンときた。
きっと天国の町や村にも名前があるんだ。そうでなくちゃ不便だもの。
「そう思う子は多いですけど、ここは天国ではありませんよ。あなたたちが自分たちの足でたどり着いた学びの地です」
神様はそう言ったけど……えー?
神様がギール君へ視線を向けた。
ギール君は柵に手を置いて、遠くにあるおっきな川を見つめているの。
「エリー……」
そう呟いて、ギール君はポロポロと泣き出しちゃったの。
大人と同じくらいおっきなギール君が泣いちゃって、ニャルはビックリした。
「お兄ちゃ」
ミャムムがそんなギール君の手を握った。
ギール君はゴシゴシと乱暴に涙を拭って、ミャムムに笑った。
そうして、ニャルを見て少しびっくりした顔をしてから、また笑った。
「なんでお前も泣いてるんだよ」
「……わかんない」
ミャムムは生き残って、エリーちゃんは死んじゃった。
ギール君が本当に助けたかったのはエリーちゃんなのに。
それが切なくて、悲しかった。
「ギール君、ここまで連れてきてくれて、ありがとう!」
「お兄ちゃ。あいがと!」
「ああ、気にすんな」
ニャルとミャムムがお礼を言うと、ギール君は笑った。
いつかこの優しい男の子に、ミャムムと一緒に恩返しをしなくちゃ。
ニャルは、ギール君の笑顔を見ながらそう誓ったの。
ティアと名乗った神様に連れられて、ニャル達は大きな建物に来た。
「ここが今日からあなたたちが過ごす寮です。寮と言ってわかりますか?」
ティア様の質問にニャル達が首を振ると、説明してくれた。
その話を聞いて、ニャル達は吃驚仰天!
「にゃん……だと?」
なんでも、半年もタダで泊めてもらえるんだって!
ギルドのカーナさんが言っていたのは本当だったんだ!
それから寮の中に入ると、そこにはニャル達くらいの歳の子がたくさんいた。
みんないい服を着て、髪がキラキラしていて、明るい笑顔なの。貴族の子なのかな?
「ティア様、こんにちは!」
「はい、こんにちは」
女の子の挨拶にティア様が挨拶を返す。
「その子は新しい子ですか?」
「はい、そうですよ。レナさん、仲良くしてあげてくださいね」
「はい!」
レナと呼ばれた女の子は元気に返事をして、周りの友達と一緒にさっそくニャル達に話しかけてきた。
ミャムムはお姉さんに囲まれて嬉しいのか、とっても興奮気味。
「へぇ! ギラントから歩いてきたの!? 今日ってアアウィオルは大雪なんでしょ?」
「うん、雪が降ってきてギリギリだった」
そんなふうに、ニャル達を中心にできた輪だったけど、そこから少し外れて1人の女の子が顔を真っ青にしてギール君を見ているのに気付いた。それから、その子はニャルとミャムムを見て、ガクガクと震え始めたの。
「お姉ちゃん?」
小さな女の子がその子を心配した。お姉ちゃんって言ってるし、妹かな。
じゃあ、あの子はニャルと一緒でお姉ちゃんだ。仲良くできるかな?
不安そうにする妹を見た女の子はくしゃりと泣きそうな顔をすると、ニャルとミャムムの前で土下座した。
「んにゃ! どしたっ!?」
いきなりそんなことされたから、ミャムムがほえーっとし始めちゃった。
そんなニャル達に、女の子は言った。
「ご、ごめんなさい。あ、あ、あなたたちが座るはずだったロビン馬車の席を、わ、私が取りました」
「にゃんと……」
そっか、だからそれを知っているギール君を見て、顔を青くしたのかな。
「わ、私だけが悪いんです。どうか妹はここに置いてください!」
ニャルはその子の前で膝をついて、体を起こしてあげた。
わぁ、めっちゃいい服着てるじゃん。触ったらダメだったかな?
「いいよ。お前も妹がいるんだもん。妹をちゃんと守ったお前は立派なお姉ちゃんだよ。ニャルもお姉ちゃんだから、お前を許すよ。正直に言って、偉いな」
ニャルは女の子の手を握って許してやった。
女の子はニャルの手を両手で握り返して、ハラハラと涙を流し続けた。
「でも、ミャムムが死んじゃってたら、きっと許してない。だから、全部、ギール君のおかげだよ。ギール君にお礼を言ってな」
「ニャル、それじゃあ話を端折りすぎてわからんだろ。まあ俺へのお礼は別にいいよ。俺も、お前は妹を守った立派な姉貴だと思う。だから、あまり気にしなくていい」
うむ、ギール君は優しいな。
すると、ティア様が言った。
「あなたがこの子たちに後ろめたい気持ちがあるのなら、ここでしっかりと学び、もし彼女たちが困っている時が来たのなら、その時に手を差し伸べてあげなさい」
「はい……っ!」
女の子は涙を流しながら返事をした。
あんまり気にすんなよ。なっ?
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