第30話 受付嬢エマ スタンピード観戦
私の名前はエマです。
冒険者ギルドの受付嬢をしています。
いえ、私なんかの自己紹介をしている場合ではありません!
なんと、アアウィオルの東部に広がる大魔境でスタンピードが起こったそうなんです!
辺境伯領はスタンピードがしょっちゅう起こる地域なので別に珍しいことではないのですが、それは『話としては珍しくない』だけであって、都会っ子の私からすれば超珍しいです。
さらに麗しのキャサグメ様がお出しになった魔道具も超珍しいんですよ。
なんと、遠くで起こっている光景を見ることができる魔道具なのです。こんなの生まれて初めて見ます!
今まで舞台の周りにいた人たちが、全員、その魔道具の中に入っちゃってます。ちょっとどういうことなのか私には理解できませんが、とにかく大魔境の砦町ゼリアへ瞬時に行ったみたいです。
ロビン君やレイン様の意気込みやキャサグメ様の解説を聞いているうちに人が人を呼び、闘技場は大混雑。
きっと、明日には王都の人は2種類に分かれるでしょうね。
闘技場に行った人と行ってない人。私は行った人です。
心の底からお仕事をバックレて良かったです!
そうこうする内に、いよいよスタンピードが始まる気配。
ロビン君とレイン様は、なんと激戦区と考えられる砦町ゼリアの防衛です。
大魔境には、スタンピードが起こった際に魔物の進路を誘導するための壁や堀があるそうなんですが、その誘導路の終着地点がゼリア最寄りなわけです。
もう少し説明すると、砦町ゼリアと大魔境の間には1kmほどの平原が広がっており、普通は砦を使って戦うところ、ロビン君たちはなんと大魔境から200mほどの場所で戦うそうです。
死刑囚でももうちょっとマシな配属になりますよ!?
ただ、今回のスタンピードは非常に規模が大きいらしく、普通じゃないやり方が必要なのかもしれませんね。
実際に、キャサグメ様の部下たちは南北に散って防衛するそうです。こちらは簡易的な砦しかなく、誘導路から外れた魔物が大量に押し寄せてくる地獄仕様です。
本当に大丈夫なのでしょうかと心配していると、ついにスタンピードが始まりました!
始まりはゴブリンやウルフなどの弱い魔物でした。
冒険者なら誰でも倒せる魔物ですが、その数がとんでもないです。
森の切れ目から1匹が飛び出したかと思うと、森の茂みが見えなくなるほどの数が一気に出現しました。
超激レアなイベントにワクワクしていた都会っ子がみんなして言葉を失うほどの数です。もちろん私も絶句です。ゼリアの冒険者ギルドに左遷させられそうになったら退職しなさい、と子々孫々に伝えると心に決めるレベルです。
一緒に来た見習い冒険者の女の子たちも私と同じで、息を呑んで映像を見つめています。
ロビン君に恋心を抱いてそうなミリーちゃんなんて、涙ぐんだ目をしながら神に祈るように手を組んでいます。
『それそれー。ロビン君、行くですぅ! レインさんに負けちゃダメですよー!』
そんな私たちの耳に、とても場違いな明るい声が聞こえてきました。
映像の中に、ロビン君を囃し立てる妖精さんがいるのです。その手にはふさふさした黄色い物を持っていて、それをフリフリしながら応援しています。
彼女はロビン君の師匠らしいですが、「タンポポタンポポ! 爆散爆散! タンポポタンポポ! 爆散爆散! ふっふーい!」などと言っている姿は、愛玩の妖精さんにしか見えません。
妖精さんの応援に背中を押されたロビン君が、魔物の群れに向かって走り出します!
さらに、そのままジャンプしたロビン君の跳躍力。5mは跳んでいますよ!?
ロビン君は空中でクルンと回ると、何もない空中を蹴りつけ、勢いよく落下しました。
『タンポポ神拳奥義・綿毛降臨! やぁああああ!』
ロビン君が意味不明なことを叫んで、魔物の群れに飛び込みます。その瞬間、20匹以上の魔物を巻き込んで大地が爆散しました!
言ってる意味は全然分かりませんが、超凄いです!
こういう広範囲技は魔法使いが使うと相場が決まっていますが、ロビン君はむしろ近接型。魔物の残骸が降る中で、ロビン君は凄まじい速度で魔物を殲滅していくのです!
時にはパンチ、時にはキック、またある時は空中でゴブリンの頭を掴んで着地の反動を利用してぶん投げます。
もはやゴブリンクラスでは爆散させる必要すらないのか、手足から繰り出される一撃で葬っています!
「「「うぉおおおおおおおおお!」」」
これには王都が揺れるほどの大歓声が上がりました。
「見て、ミリー! ロビン君、超強いよ!」
「にゅ、にゅん!」
見習いの子たちも大興奮。ミリーちゃんなんて興奮しすぎて呂律が怪しいくらいです。
唐突に場面が切り替わります。
今度は白騎士レイン様の姿が映し出されます。
『はぁああああああああ、水明閃!』
レイン様が剣を振るいます。
それだけでゴブリンとウルフが20匹近く上下に真っ二つになりました!
「これは水魔法か!?」
「知っているんですか、ギルド長!」
「いや、知らんけど、見た感じだ!」
解説役がポンコツすぎます!
レイン様はその戦果に誇ることもなく、広がって出てくる魔物を倒すために横に移動します。複数体の魔物を水の一閃で倒し続けるレイン様ですが、それでも数が多すぎます。
ですが、私の心配などレイン様には不要なものでした!
『悪しき魂よ、光の中に散るがいい! 雷鳴鏡!』
ジャンプしたレイン様が地上に向けて剣を投げつけます。
その剣が地面に突き刺さると、なんと、一瞬の閃光と共にとんでもなく広範囲の魔物が一斉に痙攣し、そのまま息絶えました! どんな魔法ですか!?
「「「ふぉおおおおおおおお!」」」
これにも観客全員が大興奮です!
白騎士かっけぇーっ!
そこで舞台に残ったキャサグメ様が解説を始めました。
『さて、2人が使っているのは古の闘法です。白騎士のレイン殿が使っているのは、英雄【魔天武神 レガ】を開祖とする魔天流。魔法と武術の融合を極めんとする修羅の武術です。彼女がやっているのは、水の刃で敵を斬り、地面を濡らした水を媒介にして感電現象を起こしています』
聞き覚えのない英雄と流派の名前に会場がざわつきます。
戦闘を生業とした人は戦闘系の英雄を信仰したいので、興味津々ですね。
『ロビン君が使っているのは、英雄【小さな侵略者 ピュー】を開祖とする幻の武術タンポポ神拳。パンチすると相手は爆散します』
やはり聞き覚えのない英雄と流派です。
可愛らしい名前の武術ですが、効果はえぐすぎます。
私の所感ですが、多くの人がレイン様の使う武術に惹かれている印象です。
魔法剣士というものはいますが、彼らは手から魔法を放つため、剣自体に魔法を纏わせる魔天流というものに華やかさを感じているのでしょう。
と、そこで映像に変化が見られました。
「むむむぅ! ギルド長、魔物が変わりました! ほらほら、魔物が変わりましたよ!?」
「わかっとるわ! スタンピードは浅い層から順番に押し出されてくるんだ。後になるほど強力な魔物が出てくるもんだ」
「どうしましょう!?」
「お前が騒いでもどうにもならんわ!」
「でもでも、ハンマーボアやソードディアがいますよ!?」
どちらもB級冒険者がパーティで挑むような相手です。それが魔物の群れの中に、パッと見ただけでも5体は混じっています。
ハラハラする私ですが、無駄な心配でした。
『はぁああああ、羽裂領域! やぁあああああ!』
『絶望よ、己の愚かさを悔いながら灰燼と化せ! 奥義、炎翼天駆!』
ロビン君とレイン様の敵ではないのです!
地面を殴りつけたロビン君の周りの魔物が一斉に吹き飛び、レイン様に至っては炎の翼を纏って戦場を駆けています。
英雄です!
これこそまさに英雄が誕生した瞬間です!
一方、辺境伯軍の様子もたまに映ります。
ロビン君たちは最前線で魔物を倒し続けていますが、取りこぼしもあります。
特に中層の魔物が現れるようになってからは強い魔物を最優先で倒しているようで、弱い魔物は辺境伯軍が相手をしているわけです。
こちらも大迫力です。
多数対多数のぶつかり合い、完全に戦争です!
あっ、トバチリ様たち剣聖教会の人たちも頑張っていますね。
おそらく、キャサグメ様のご温情でチャンスを貰ったのでしょう。汚名を返上するために必死です。
その強さはさすがで、ロビン君たちほどではないですが、普通の冒険者と一線を画す凄まじい活躍を見せています。
「ふぉおおおお、ロビン君を映して!」
「レイン様、レイン様ー!」
でも、辺境伯軍の活躍になると、戦場に行った彼氏の帰りを待つ彼女みたいにしていたミリーちゃんや、白騎士に憧れがある見習いの子たちが手をぶんぶんして騒ぎ始めます。
彼らの活躍も見てあげましょう、ね?
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