第14話 ロビン 初めての共同作業
説明が終わると、老師が指をパチンと鳴らした。
すると、周りの景色が一変した。
さっきまでは草原だったのに、赤い岩ばかりの荒野に変わったのだ。
「ふぇえええ?」
「転移魔法じゃ」
そんなおとぎ話に出てくるような魔法も!?
「老師はそんなこともできるの!?」
「まあの。さて、ここらには手ごろな魔物がいる。まずはそいつを狩るとしようか」
「そういえば、このダンジョンの等級は? 戦ったら死んじゃうって言ってたし、C級ダンジョンくらい?」
「いいや、ここは第14階位ダンジョン……お主らの区分で言うならS級ダンジョンの5段階くらい上のダンジョンじゃ」
「はえ、S級ダンジョンの5個上? そんなのないよ?」
「そりゃお主らがS級ダンジョンまでしか定義していないからじゃ。大魔境の奥地にはS級を越えるダンジョンがゴロゴロあるもんじゃよ。このリゾート村には、ここよりきついダンジョンもある」
それを聞いたレイン様がダッシュで逃げた。
しかし、すぐにペタンと尻もちをつく。それを眺めていた僕も同じく尻もちをついた。
山のように大きな岩の陰から、見たこともないほど大きなゴーレムが現れたのだ。
「ギガントゴーレムじゃ」
老師はそう言うと、軽やかにジャンプしてゴーレムの前で腕を振るった。
たったそれだけで巨大なゴーレムが細切れになってしまった。
あとには2mを越える巨大な核が残っていた。
続いて老師はレイン様に魔法で水をぶっかけた。
「わきゃー!?」
「いつまで寝ておる」
どうやら気絶していたらしい。
僕もあと数秒倒されるのが遅かったら気絶していたと思う。
「え、あれ!? 超でっかいゴーレムは!? 夢だったんですか!?」
キョトンとするレイン様は、自分が水をぶっかけられて、さらに乾かされたことに気づいてなさそうだ。
「ゴーレムならここにおるぞ」
老師は巨大な核を叩いて言った。
「さて、こいつはギガントゴーレム。通常のゴーレムと同じで、核を壊さなければ周囲の鉱石を取り込んで何度でも復活する。わしは核を壊さんから、お主ら2人で頑張って核を破壊するんじゃ。武器はほれ、これを使え」
老師はそう言うと手を振った。
すると、そこら一帯の地面につるはしがバラまかれた。
な、なんだろう、つるはしから異様な気配が漂っているような……いや、つるはしだし、名剣とかないよね?
「老師、このつるはしは凄くいいのじゃないの?」
「いいや、三流品じゃな。壊しても構わん」
「でも、凄い気配がするよ?」
「そういうのを三流品という。真に一流の武器とは静かな佇まいなのじゃよ」
「ふーん。わかんないや」
そんなことをしている間に、核の周りに岩が集まってきた。
「ほれほれ、早くせんと復活するぞ」
「ハッ!? は、はわわ!」
僕は近くのつるはしを手に取って核へ向かって、慌てて駆けだした。
ガキンッ!
鈍い音と共につるはしが弾かれる。
「か、硬い! こいつ!」
でも、弾かれたって何度でも攻撃すればいい!
僕は夢中で核に向かってつるはしを振る。
「レイン様も早く!」
「あわ、は、はい! ロビン君、退いてください。魔法を使います! ウインドボール!」
正気を取り戻したレイン様が、魔法を使う。
渦巻く風で作られた球体が核に当たるけど、あまり効果はなかったように思える。
「このゴーレムの核硬すぎですよ!?」
「やあ! 普通のはこんなじゃないの? えい!」
「普通はつるはしで2、3回も叩けば壊れますよ!」
じゃあ、きっと凄く強いゴーレムなんだろう。
「ほれ。核ばかり攻撃していたら岩が集合してしまうぞ。岩も攻撃して復活を遅らせい」
老師のアドバイスを受けながら、僕らは戦い続けた。
「つるはしがまた壊れちゃったよ!」
「ぎゃー! ロビン君、早く交換してください!」
途中で老師からポーションを貰ったり、復活してしまったゴーレムを破壊してもらったりしつつ、やっとのことでゴーレムの核を破壊できた。どれくらい戦っていたのかは、さっぱりわからない。
破壊された核からは、これまた見たこともないほど大きな魔石が現れた。
「はぁー、はぁー、やった! やったよ、レイン様!」
「ひぅー、ひぅー、や、やりましたね、ロビン君!」
協力して倒したからか、いつしか僕とレイン様は仲良しになっていた。
「それにしても、こんな大きな魔石見たことないです。こんなの国宝レベルですよ」
たしかに、僕も見たことがない。
魔物は体のどこかに魔石を持っているんだけど、弱い魔物だとそれこそ小指の爪ほどの小ささしかない。
僕が見た中で一番大きい魔石は、この前、S級冒険者がサイクロプスを倒して持ってきた物だ。その時は冒険者ギルドが大騒ぎになったけど、その時に見た巨大な魔石はこの半分もなかった。
老師がほぼ無力化してくれたから倒せたけど、そうでなければこの魔物はどれほど強かったんだろう?
「終わったかの?」
背後から言われて振り返ると、椅子に座った老師が本を閉じたところだった。
「ふむ。レイン嬢ちゃんはレベル60、ロビン坊はレベル52か。まあそれだけあればひとまず十分じゃろう」
「「え!?」」
老師にそう言われたので、僕らはレベルについて思い浮かべた。
すると、たしかに僕のレベルは52になっていた。
「わぁあああ!」
「凄いですぅ! こんなの副団長よりも強いですよ!」
僕とレイン様は大はしゃぎ。
ていうか、レベルが一気に3から52まで上がるなんて、やっぱりギガントゴーレムはえげつないほど強かったんだろう。
「なにを喜んでおる。さっきも教えた通り、レベルとは成長の器を拡大しているに過ぎない。今のお主らはまだこれっぽっちも強くなっておらん。第一次成長限界を超え、そのレベルで出せる真の力を引き出さなければならんぞ」
「そうだった! 老師、どうすればいいの?」
僕がそう言ったところで、また新たなゴーレムがのそりと現れた。
ギョッとする僕らをよそに、老師は冷静に言った。
「ここの魔物は威圧に鈍感での。場所を戻そう」
老師が指を弾くと、僕らの見ている景色がまた変わった。今度は、周りが塀に囲まれた訓練場みたいな場所だ。
急激な風景の変化に僕とレイン様はふらついた。一度や二度では慣れないな。
「ではこれから、第一次成長限界を超える修行を始めるぞ。まずはこれをつけるのじゃ」
老師は僕たちに黒い腕輪を渡してきた。
僕は言われるままに腕輪をつけた。
「ロビン君。どうですか?」
「え? 別になにも……?」
うん、なにも起こらないな。
僕の答えを聞いたレイン様は、ニコリと微笑むと腕輪をつけた。
「ふむ、つけたの。それじゃあ次にこれを飲むのじゃ」
今度はポーションをくれた。
色こそ違うけど、先ほどゴーレムの核を壊した際にもポーションをもらったので、僕は特に気にせずに飲んだ。
レイン様はフタを開けるのに手間取っている。
ちょっと不器用なのかな?
「ねえ老師、このポーションはどんな効果なの?」
「それは体力、傷、魔力を常時回復し続ける特性ポーションじゃ。名をフェニックスポーションという」
「カッコイイ!」
老師が告げたポーション名に僕がドキドキしていると、レイン様もやっとフタを開けてポーションを飲んだ。
……ハッ!?
でも、これって絶対にお高い物だよね?
千切れた腕をくっつけられる上級ポーションと、どっちが高いんだろう。
僕、ゴブリンすら倒せてないのにいいのかな?
そんなことを考えて申し訳なく思っていると、老師は言った。
「さて、準備は整ったの。それでは修行を始めるぞい」
老師がパチンと指を鳴らす。
「うぎゅううううううう!?」
「ひぅうううううううう!?」
するとどうだろうか。
腕輪が一瞬光ったかと思うと、僕らの体がズシンと重くなるではないか。
レイン様が慌てて腕輪を取ろうとした。
「無駄じゃ。その腕輪は基礎が出来上がるか、わしが許可を出すまで外れん。いや、この村の外に出ることでも外れるか」
「ひ、ひぅうううう、そ、そんなー!」
レイン様の悲鳴がダンジョンに響いた。
でも、こんなのは序章に過ぎなかったんだ。
温かな村で生活すると思っていた僕だけど、こうして地獄の訓練の日々が始まってしまった。
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