伍章 : 臨界の暁

 3日前の事だ。

アルニは城へと全力で駆けた、

すると前から一人走って来た。

彼は城から連絡に来た者で、

アルニに隣国からの侵略が始まる事を伝えた。

「そうか...」

アルニはひとつ考え、もときた道を帰った。

船に心臓は宿った。

だがテストで飛ばしてしまうと、

奴等はあの船を奪いに来るだろうか。

いや、そもそも無事に飛ぶ確信も無い。

出力に耐えきれず空中分解でもしたら...

多勢のヒトを失う。

今はそれどころでは無いのに、

無くしては行けないのに。

あっという間に戻ってきた姫に

造船師達は驚きを見せる。

到着一番にアルニは、

「このを隠して! 見つかったらいけないわ! 山全体を埋めます!」

と声を大にして伝えると、

只事では無い事であるのを

事前の鐘で知っていた全員は手際よく

船の隠匿作業にかかった。

「それと...砲塔を付けて...ください...」

格納魔法を使用するために土を掘り出し、

掘り出した土を集めて、それを仕舞う。

仕舞ったのを上から被せて埋めて行った

一日と半日あまり作業を続け、

輪郭だけ山は元の姿を取り戻した。

その後、アルニは父宛に避難民を

ここに誘導する事等を記した手紙を運ばせた。

少しして返事が届いた。

その手紙には、避難民の誘導に了解した事、

そしてアルニはそこに残る事が書かれていた。日が沈み...敵の軍が歩を再開した。

一人、ともし石を片手にアルニは、

土しか見えない艦橋ブリッジにいた。

「私、他になにかできる事は無いのか...?」


『先ずは威嚇射撃、撃て。』

ごうん...。ごぉーん...!!

鈍い破裂音が大気を揺らす。

もちろん投降などはしてこない。

『次は当てろ』

ごうん...

『撃て』

ごごぉーん...!!!

国に、鈍い音が響くと、

遅れて無数の自走砲からの火の雨が降り注ぐ。

石を積み上げ、固めた壁は見事に打ち砕かれ、

砂埃や火災による煙がまだ暗い夜空に浮かぶ。


がしゃぁっ!!!

「王、大丈夫でございますか?」

「あぁ...やるしかないのだな、こちらも撃ち返すのだ...!」

「了解、総員!迎撃開始!」

「迎撃開始!」

ぞうぅん...!!!

雨の先に向かって砲撃を行う。

放たれた大砲の弾は当たったところで

全く意味をなさなかった。


『魔導砲はどうだ?』

『はっ!いつでも!』

『そうか、もったいぶるなよ?』

『はっ!』

幾つかの戦車に装備された、魔法を利用した

特殊な火器を持つ車輌が顔を出すと、

ばごぅうん!!!

即座にマゼンタのいかずちを放った。

その光線を真正面から受けた城は一瞬にして

赤熱し融けてしまった。

魔導砲の砲塔を交換している間、

空を覆う飛空挺が前に出る。

獲物の国が放つ、砲弾を正確に撃ち落とす。

そうして第2射のチャージを

魔導砲戦車は開始した。

きゅいいい....

ばごぅうん...!!!

射線上の物をいとも容易く消していく。

火災は強くなり、空はあかく燃える


「うわあああ!!」「ダメだ!そっちに行ったら!」「このっ...この! 止まれよ!」「魔法を放つんだ! 大砲が役に立たない!」「減衰が酷いぞ...!」「生きてる限り撃つんだ! あぁッ!?」「やめてくれよ!!!」

簡易的に作られた塹壕は

見るも無惨に焼かれていく。


『ひと押しだ...』


「まだ諦めるな...!」


 一人でただ腰掛けていたアルニの持つ、

ともし石が切れてただの透けた石になった。

辺りは真っ暗になる。

今になって少し怖くなってきた。

光を失った艦橋で一人思う。

近くに取り付けられたツルツルした板を擦る。

...と蒼い波紋が走った。

[[ヒトヲ認識]]

「えっ?」

自動音声が、脳内に響く。

[[全情報ヲ確認。]]

ひゅぅぅぅぅ...。

冷却装置ファンが回る音がする。

「生きてるの...?」

[[生体情報を認証シマス。指示ニ従イActionして下Ψ。]]

「えっ? えええ!? アクションしてくださいって...? 踊るのかな...?」

[[誘導ヲ開始]]

蒼い粒子が空間に立ち込めると

一つの帯となり、次へ行く場所に導く。

それについて行き...。

[[GOOD! てのひらを認証パッドに当テテACTくだΨ]]

「こう...?」

[[GOOD! 認証完了現時刻2222,2,22。22:22...。《{Error}時刻ヲ検索できませんでした。》を持ッテ、貴女アルニを第一級使用主としReboot...全システムの情報の確認開始]]

「...まさか....飛ぶの?」

避難所としてこの船には

多くの民間人を載せている。

飛んで撃ち落とされるなんてことがあったら。

直ぐにアルニは艦内放送をかける。

「このふねから全員降りて! 焦らずゆっくりでいいからッ!」


「な、なんだって!? ここも危険なのか!?」「姫さまからの指示だ! ここから出るぞ!」


[[強度難アリ]]

「すみませんね! ところで会話できるの?」

[[主ガ望ムなら、答えられる中で答エマス]]

「ならこの船の中に他にヒトは?」

[[誰モ確認出来ズ]]

「ありがとう、作業続けて」

[[了解。全システム最適化開始]]

メキメキと骨が軋むような音が響く。

手すりを強く掴み倒れないようにする。

[[最適化完了。ALLグリーン。]]

「おーるぐりーん...? えーと...でも、なんか行ける気がする...!飛べる?」

[[了解。参次元航行に移行。反重力発振。龍子リアクター出力上昇。臨界マデ三、二...]]

がうぅぅぅんん...!

[[操舵台にお立ち下Ψ]]

操舵台なる場所への誘導が行われる。

「分かった...!」

立つと同時に龍子ホログラムが

自身を中心に次々とポップアップする。

[[操舵ハ脳内からDirectに行われ鱒。貴女ガ思う、ソノトヲリ動く。外部及ビ内部情報は龍子ホログラムウィンドウを参照]]

意味が分から無かった所に説明が成される。

「大体わかった気がする...! 飛ぶよ!」

[[Of course. Cleared for Takeoff. Have a good flight良い旅を!!]]









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