四章 : 硝煙の香
水平線の反対。
地平線の向こうから、
悠々と迫る影があった。
「この子の心臓......」
宝箱こと、龍子リアクターが
組み込まれる瞬間である。
「コイツのシステムならば飛ぶのは容易なんだが......」
「だが......?」
アルニは聞き返す。
「だが、そこからが問題だ...強度が足りるかは全く分からんし、制御もとんでもないぞ」
「うーん...どれくらいの人数が必要なのかしら?」
再び問う。
「それも分からんが...このサイズ、姫独りじゃ到底飛ばせんことだけは分かるな!! ...なんだその顔は? まさか家出でもしたいのか...?」
「そ、そんなことはっ!」
今日も変わらず賑やかだ。
「ってそれはなんだーっ!」
運ばれていくのは
二から三本のスリットの入った箱状の物で、
そのスリット1本ずつに
長く重い筒が刺さっている。
古代装甲戦車のそれだ。
しかし砲塔の数が戦車ものとは全く違うし、
そもそも履帯等の移動する為のパーツが無い。
だがこれだけは分かる。
「この子はヒトを殺す為の道具じゃないの! 取り付けないでください...!」
アルニは声を荒らげる。
「す、すみません......!」
しかし、そのパーツから元々この船が、
その手の物である事がわかった。
「うーん、その穴には貯水槽を入れて下さい......!」
「貯水槽......、ですか......?」
「えと、便利ですから......」
ぽっかりと不自然に空いた穴。
元はその砲塔が収まって、
視覚的にはバランスが取れていたのだろう。
このままでは不恰好になってしまう...
故の貯水タンク。
国にある不要な分は無かった為、
それに合うように新しく作る事となった。
しばらくして、
カンカンカンカン...
鐘の音が国中に響く
この鐘の打ち方は...!
「敵襲!?」
ここ100年程、一度も無かった敵襲の音。
聴くチャンスと言えば、
ココ最近では数が減らされた訓練くらいだ...
アルニは城へと走った。
「どういう事だ......!」
国王ガリウが全く使って無い
城の会議室で問う。
「飛空挺72......。戦車60......。騎兵も沢山......!」
「この国に攻め込むにはオーバー過ぎるではないか...?」
ガリウには信じられ無かった。
それ程の対策をする理由が
この国には無いと思ったからだ......。
一つの不安要素としては、例の"宝箱"
「探りを入れるか......」
「ガリウ王! 奴等からの伝令です......!」
丸められた1枚の紙。
「読み上げます......。
明日、同刻にて貴国に使者を遣わす。
明後日にて貴国を我が国の占有地とする。
......なんですかコレはッ!? 滅茶苦茶だ!!!!」
その手紙を読んだ者は思わず声をあげる。
「ぐぅ...兎に角、明日だ......! 私が直接話をつける......」
伝令兵が去っても
日が沈んでも
地平線を埋め尽くす軍隊は
ずっと、そのままだった。
また、日は昇る。
大軍の中からひとつ、車が飛び出る。
丸目のヘッドで虫のような車が、
コトコト音を立てながら獲物の国に入る。
『どうも皆さんごきげんよう』
ドアを開けるなり現れたスーツの男は一言。
この国では見ることの無い
きっちりとしたモーニングコート、
そしてシルクハットを外しての挨拶......。
彼がいきなり、国を喰いに来た代表とは
その佇まいからは思えなかった。
「ここまでいらして頂き、大変おつかれでしょう......。こちら、の部屋へ......」
警戒は解かず、意図を探りつつも誘導する。
机越しに両国の代表達が向かい合う。
『我が国から貴国へ要望が一つあります...何も難しい事ではございません。ここを明け渡す、それだけで御座います。』
「ほう......、それが簡単と...?」
『そうです。我が国では隣小国を統一させ、より効率よく、インフラや、食料問題等の改善を図る事が最大の目的です。国が一つになるだけで貴方のご身分も高位を維持したままで御座いましょう。この国自体がヒト不足とやらで崩壊してしまう事も無くなることでしょう。』
本当にそうだろうか?
問い返す。
「ほかの国々には失礼かもしれませんが......。この国のような小さな小さな国を幾らか寄せ集めたとて、貴国のような大国にはなれないと、私は思いますが......?」
『その時はその時...でございます』
なれなかった時は、その程度として...。
こちら側としては、あまりにも博打過ぎる。
1から負極の1までしかない。
そして話を持ちかけてきた国には
デメリットが無い。
だがメリットの加減は有る、
言うなら1から2程だ。
成ることが出来れば、
近くにただ大きい国ができただけ。
貿易国が増えるだけだ。
しかし後者の方...成せなかったのなら......?
実質的な奴隷国家の完成だ。
ひたすらに金と物と人を
我ら小国から吸い続けるのだろう。
「私がもし断ったら、あの地平線を黒く染める者たちが硝煙を噴くのでしょう?」
『もちろんでございます』
どっちにしろ。
いや、
最初から、
決まっている。
既に決めている。
「では、今日はおかえり頂こう」
『ザンネンです』
最初の会合から三日が経つ
約束は約束、一方的だが......。
それを迎え撃つ覚悟はある。
ただ今、日が昇る3時間前だ。
地下第二会議室にて
「日が昇る前に防衛網を完成させるのだ」
「ガリウ王! 敵国の前線が動いています!」
「間に合わんか......兵士以外の避難は終わったか?」
「なんとか間に合いました! 防衛網は現状78%の能力を保持しています...コレならなんとか」
ガリウはてっきり旅人が何か喋ったのだと
そう勝手に疑っていた......
心の中で謝りながら呟く。
「......うむ、迎え撃つぞ」
数多の大群を指揮する、
モーニングコートにシルクハットの男。
『ゆっくりでいい、確実に全て燃やせ、我々も負ける訳には行けないのだ。ま...負けようがないケド』
彼は指示を出し、
軍はそのままの通りに
ゆっくりと進撃を開始した。
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