参章 : 宝箱の鍵

 継ぎ目を交ぜて消す。

別々の物を一つに。

『一日でもだいぶ変わるもんですねぇ、この舟さん』

「私、言い出しっぺですけど......、本当にそうですね......」

『この子もきっと産まれるのを待ち望んでるでしょう。若いのにもうお母さんてワケですな......?』

「......んっ?」

旅人はくすりと笑う。

『なんでもない......。あっ、そうだった。ここに面白い物があるんでしょう?』

「面白い......、もの」

『莫大なエネルギーを秘めた宝箱......、辿り着くには地図と鍵が必要......』

指し示していた言葉を理解する。

言葉も出ぬ内に旅人は続ける。

『地図なら私が持ってる......。鍵はその先にある...この国様には開けられるかな?』

あれを使う方法。

『君にこれを......』

ぱちんっ......。

指鳴らしが空に響き、その細いニ本の指に

挟まれていたのは丁寧に畳まれた紙。

其れをアルニの手に掴ませると......。

『ただしくつかえよ?』

なにか心がヒヤリとした。

が、その感覚の理由を探そうと思考が止まる。

ぽすっ......。ぽす......。

「ひゃぁっ!?」

不意に旅人はアルニの頭を2つほど

軽く猫を触るように優しく叩くと、

『ちょいと怖かったでしょうか? ...さて、私は行くとしますよ、今日で4日目ですな? まぁちょうどいいでしょう!』

「あぁ、はい......。」

感触が残る頭を少し顔を赤くし、

どこか滑稽に両手で抑えながら......

「さ、さようなら......!」

『ふふっ、また......』

丘に独り取り残されたアルニは、

精密機械の回路図のように複雑化した脳内を

髪をぼさぼさに掻き乱す事で一蹴し、

一つ深呼吸をして......

「帰る......!」

手に掴んだ"地図"を落とさないように

焦らず亀のようにゆっくり歩いた。


城に着く頃には既に暗闇が包んでいた。

見上げた宇宙そらには月が浮かぶ。

「天国って月にあるのかな...?」

金色の髪を水の様に流しながら、

アルニは独りごちた...つもりだった。

「それはどうなのかな?」

二階の窓からの男性の声。

言わずもがなガリウの物だった。

身を乗り出す父親の姿を確認すると、

「ただいま!」

「おかえり!!」


 食事場には父親以外にも

ヒトが集まっていた。

日しきりに船を繋げ続けた

造船のプロフェッショナル達や、

胃袋を支えた炊飯係の方々など...。

夕飯に出たのは竜の卵のオムライス。

鳥のそれとは遥かに段違いな巨大卵、

一個でだいたい四から五人分である。

捕りに行くだけでも命懸けだろう...

そんなことを思いながら

スプーンを入れ、口に運ぶ...。

忘れていた!

「頂"いてい"まふっ!」

暖かい笑いが食堂を包んだ。

あっという間に食事が終わる。

「そういえば...」

暮れどきに丘の上で、

例の旅人に貰った"地図"

広げてみると...。

それは何かの説明書のようなものだった。

いや、"何か"のでは無い、

あの旅人が言う"宝箱"。

海より引き揚げられた、莫大なエネルギーを

毎マイクロ秒度に生み出し続ける

銀色のブラックボックス、

其れを我がモノとする手順の書。

言うならば、地図。

「龍子リアクター...って龍子!?」

思わず声が出てしまった。


龍子、其れは科学物質とも魔力ともまた別、

永遠にこの星、世界を

絶えず流れ続け、満たし続ける、

神秘で仰望で畏怖。

この世界には龍という生物がいる。

しかし、生物とは言っても全てが全て

同じカタチを取っている訳ではなく。

個体個体に全く別のカタチを持っている。

その龍は龍子という未知を

さも身体の一部のように自由に扱い、

世界の均衡を保ち続けている。

竜人系という一部の種族も龍子を扱えるが、

龍のそれには遠く及ばない。


 そんなモノにヒトが手を伸ばしたのだ、

コレを産んだそのヒトは、

幸せも掴む事ができたのだろうか?

「ん? なんぜよなんぜよ?」

「わわっ!」

反射的に隠そうとするのを

グッと堪え、技術者達に見せる。

途端にガヤガヤと喋り始めた。

「龍子......!? こりゃたまげた!」「いや、コレはチャンスじゃ!」「なんの?」「こいつを船に載せるっちゅうことじゃ!」「おぉッ! ソンなら空も自由自在やのう」

「アレを船に!? ......出来るのですか?」

「ったりめーよぅ! ワシらを何じゃと思っとる!」「国一...いや世界一の造船職人や!」

「ちゅーことけぇ、やったるぜよ!」

おぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉ!!

そこそこの広さを持つ食堂はなにかの大会が

始まったのかと言わんばかりの熱気で

塗り替え尽くされた。


 飛ぶ船なら既にいる。

しかし、船に風船を括りつけて

プロペラでゆっくり進むような物。

しかし龍子を使うという事は

話は変わってくる。

それこそ目標である唯一無二。

そして国を象徴とする翼へ...。


未知という可能性を前にヒトは

手を伸ばさずにはいられない、

進む事を選び、ヒトは何かを得る。

希望も絶望も.........。

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