弐章 : 方舟の卵

「......んあ?」

瞼越しに差し込んだ光。

目を開ける。

そしてまた閉じる...

「ぁあっ!」

瞼のシャッターを目の筋肉で押しあげ

勢いよく布団を蹴っ飛ばし

廊下へ飛び出ようとしたが、

自身が白いキャミソールに、

蒼い半ズボンだけだった事に気づき、

最寄りの上着を引っ張り取ると

階段を1つ飛ばしで降りていった。


「おはよう......!」

「おっ、早いな...、感心感心...と」

その反応に何か異変を感じ取ると

ぼっさぼさな髪を振り回して時計を見ると...

「まだ日が昇ったばっか!」

と叫びかけたが、抑えて

「朝ごはんある?」

「こんな早く降りてくるとは思って無かったんで...まぁパンとハムでサンドイッチでも作って食べな」

「はーい」

この家は、いや城には2人しかいない。

先ずメイドはいない。

国王であるガリウ、そして姫のアルニ。

この国自体小さな国で正に漁村。

生活面も2人で補える程の城だった。

だからいない、

母もとうの昔に死んでしまった。

だからいない。

「人間、やっぱり待つのが一番長いから......寝ているのに疲れて、今日はあんなに早く起きたのかな......?」

「そうかもねー」

こーん...、こーん...、こーん...、

目覚めの鐘が響く。

薄明かりに降る光も其れを合図にか、

一層眩しくなる。

「食べたらちゃんと着替えるんだ」

「ん...はーい」


 城のバルコニーに国王ガリウが立つ

「皆、おはよう。だんだんと朝も涼しくなっていくが、集まってくれてありがとう。いきなりに本題だが、国民全員で手伝って欲しい事がある。海岸へ来て欲しい。」

ぞろぞろと国民達は海へ向かう

そこにあるのは勿論...

「なんだこれは!」「赤い...錆びているのか」「これをどうするって言うんだ?」

民は思い思いの言葉を口に出す。

あるのは赤黒い巨大な塊。

「そうこれは昨夜、我が娘が拾った古代からの贈り物だ...。ご存知の通り、姫は好奇心旺盛で、すぐ危ない所に突っ込むが...」

「お父様っ!」

「あぁっすまない...ふぅ、皆にはこれが何に見えるか?私には船の頭に見えた。これを治す。治して漁船として使おうという訳ではない。もしこれが予想通り船で、無事完成すればこれは他国には無い、唯一無二の船となる!!  つまるところ、この国の個性、よって国おこしにもなる訳だ...最近では人の流出が多く、その内この国も形を保てなくなってしまうかもしれない...だが、終わらせてはならない!! ここにあるのはただのかさばるゴミでは無い、次世代を担う希望...!!  国を救う方舟の卵なのだ!!  我が国の為にも是非、力を貸して頂きたい」


 彼の演説は成功した。村の力自慢や、

知識を持つもの、胃袋を支えるもの、

様々な頼れる有志が参加してくれた。

この国家プロジェクトを完遂させるべく......。


「すごい活気だ! ありがとう!」

「いいんだアルニ、子の願いを助けるのも親としての仕事だ...! さて、アルニ、お前の番だぞ?」

山を切り崩し作られたのは造船所、

そこに運び込まれるのは民が引き揚げた

腐りきった鉄の塊。

「行きます...!」

手を当てると紫の稲妻が走る。

そして、浮きに浮いたサビは

綺麗になくなり、

おそらくかつてのであろう鉄の色を現す。

「でも...、バラバラだ...」

「そこからはわしらの出番ぜよ!」

「あぁっ...!」

颯爽と現れたのは

造船のプロフェッショナル達。

「わしらが繋ぎ合わせて、また旅に出れるよう、立派にしちょるぜよ!」

「頼もしいですワ!」

のっしのっしと彼らは去っていく。

「私も...!」

運ばれてくる塊達を暇なく復元していく。


復元魔法、彼女の固有魔法であり、

他にこの魔法を扱える物はいない。

格納魔法での分解と同時に、

必要無い物質をマニュアルで取り除く。

そこまでは誰にでも努力次第で出来る。

しかし、ここからだ。

その魔法は完全無意識の全自動フルオートにおいて

必要分との分離を行い、

その上で昔の状態へと回帰させる効果。

今ある物質分の中で復元、

それはカタチを取り戻す。


日に日に参加人数は増え、

結果、

国民全員でプロジェクトに取り組んだ。

無駄な人は誰一人として存在しなかった。

其れを、船を見てみたい思い一心に。

引き揚げ、治し、繋げ、日は重なったが、

器は完成に近づいて行った。


 ある日、とある物が引き揚げられた。

其れを復元した、その瞬間から其れは

光を放ち始めた。蒼い光である。

筒状の何かの機械。

一人の学者が其れを見て、

「物凄いエネルギーが溢れ出している...?」

と感想を漏らした。

その次の日に、とある若い女が現れた。

彼女は自身をただの旅人と名乗り、

三日この国で過ごした。

丘の上でアルニはそのヒトと会った。

『お嬢さんがこの国のお姫様なのかな?』

「...そうです」

『それでお嬢さんがコレを綺麗にする固有魔法を持っているという事ですね?』

「えぇ...そうです、そうですけど...」

『何か?』

「お嬢さんじゃなくて、私にもアルニと言う名前があります...!」

『おっと失礼...ではアルニ様と』

「んん...まぁそれで」

 ...............。

そよ風が丘を包む。

目を下ろせば見えるのは抉れた山。

そして希望。


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