第18話 聖女

フィリアが睨みながら言った。

「あれ?バレちゃいましたか?」

久留洲はそう言って舌を出したかと思うと、次の瞬間にはもういつもの真顔に戻っていた。

「まったく。貴方という人は……。昔から変わりませんね」

「そうですね。自分でもよく分かっています」久留洲は苦笑いしながら答えた。

「……で、どうしてここに?」

「もちろん、貴女に会いに来たんですよ。フィリア」

久留洲はそう言いながら、フィリアの手を取った。

「……っ!!やめてください」

久留洲はフィリアの手を引き寄せると、そのまま指先に口づけた。

「相変わらず、手厳しいですね……」

久留洲は寂しそうな笑みを浮かべる。

(この男、何を考えているのでしょう?)

フィリアは警戒するように身構えた。

「安心して下さい。今は、何もするつもりありませんから」

久留洲はそう言うと、スッと目を細めた。

「今日私がここへ来たのは、貴女の様子を見るためです」

「……どういうことですか?」

「貴女が天使の任を解かれたことを聞きました」

「……」

「どうしてそんなことになったのですか?」

「……私にも分かりません」

「何か思い当たることはありますか?」

「いいえ。特にこれといった事は……」

「そうですか。では、これからはどうするつもりで?」

「それは……」

フィリアは言葉に詰まる。

「まさか、このまま王宮で働かせるつもりではないですよね?」

「……」

「もしそうなら、僕は反対しますよ」

「……」

「それとも、貴女も僕の味方をしてくださるとでもいうのですか?」

久留洲が挑発するような口調で言った。

「えぇ、そうです。お兄様のためならば、私はどんなことでもいたしますわ」

フィリアは迷いなく答える。

「……ふーん。それは嬉しいね」

久留洲は笑顔を見せる。しかしその目は、決して笑ってはいなかった。

「……ただ、もしそれが本心なら、僕に協力してほしいことがあるんだけれど」

「なんでしょうか?」

「実は今、とある国に滞在しているんだけど、その国に聖女がいるらしいんだよ」

「聖女?」

「そう。それで、その国の王がどうしても彼女に会ってみたいと言っているらしくて」

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