海辺の町④
「はぁぁぁ!!」
「ガァァァ!!」
ノアと獣は叫ぶ。
2人の間で爪と剣が交錯し、火花が飛ぶ。
互いに攻撃能力を最大まで高めた姿に変化し、その一撃は今までの比ではなく、そこから放たれる空圧だけで地面が、建物が斬られ、きざまれていく。
一撃でも受ければ間違いなく致命傷となる激烈。
その暴風は辺りを荒野とせんばかりであった。
嵐が動く。
戦いの余波で吹き飛ばされた建物を抜けると広場に出た。
そこではまだ多くの人々が騒ぎに右往左往のきりきりまいで、ノアと獣に気づくと蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。
先に動いたのは獣だった。
持ち前の速さでノアの周りを駆け回る。
人の多いこの場所では炎の竜巻は使えない。
ノアは目に力を込めた。
生命力の力で強化された動体視力は目に追えなかった獣の動きを正確に捉える。
ノアの右斜後方から獣は襲いかかった。
ノアはそれを防ぎ、カウンターを帰す刀で打ち込む。
が、獣はそれをひらりと交わし、また周囲を疾走し始める。
そして、また同じ様にこちらに襲いかかって来る。
ノアは反撃するが、やはり躱される。
広いこの場所で獣は己の機動力を十全に発揮しており、それゆえにノアは獣を捉えきれない。
(なら…!)
ノアは獣の胸に一撃を入れた状況を思い返す。
ノアは覚悟を決めた。
獣が再び迫る。
艶やかに、悍ましく光るその凶爪がノアの体を貫く。
ノアは膝をついた。
「ギキァァァ!!!」
獣が吠えた。
それは歓喜の咆哮。
憎き敵を討ち果たした勝者の絶叫だった。
だが、その声はすぐに途絶える事になった。
獣がノアの姿を見て固まる。
ノアは爪が当たる瞬間、体を捻り、心臓ではなく左胸の上部から肩と腕にその爪を差し込ませていた。
筋肉を生命力で強化し、その爪が抜けない様に固定する。
動けない事に焦った獣は刺した手とは別の手、右爪でノアを攻撃しようとしたが、もう遅かった。
ノアは剣を薙ぐ。
獣の両脚を斬り落とした。
獣が尻餅をつく。
尻餅をついた拍子に爪がずるりとノアから抜けた。
ノアは起き上がり、獣を見下ろす。
獣は悪あがきに両爪でノアを攻撃しようとした。
だが、それをノアは獣の手首を斬り落とす事で出来ないようにする。
両手足を失い、獣は狼狽する。
芋虫の様にノアから後ずさる。
その表情には明らかに恐怖が滲んでいた。
ノアは獣にゆっくりと詰めよる。
ずりずりと後退した先にあったのは漆喰の壁。
獣の背中が壁にあたる。
退路はたたれた。
ノアは剣を上段に構える。
確実に心臓を斬れる様に狙いを定める。
獣が浅く鳴き、震える。
剣が振り下ろされる。
その時。
「ゴァァアアアアアアア!!!」
獣が吠えた。
そのとてつもない声は衝撃波となり、ノアを吹き飛ばす。
空中で一回転し、片膝をつくように着地する。
急いでノアは視線をあげ、そして驚愕した。
獣の危機、先の絶叫に反応したのだろうか。
町中に散っていたアッシュ達が集まって来たからである。
ノアと獣から距離を取った後方の人々の悲鳴が聞こえ、それを割る様に次々とアッシュ達は姿を現し、ノアに襲いかかった。
「くそっ!邪魔だ!」
ノアはアッシュ達を斬り倒す。
群がって来るアッシュ達を相手にしてるノアの隙を狙い、獣の周りにアッシュ達が集い、自らの体を獣に捧げ、融合していく。
溶け合い、混ざっていく獣はより禍々しく、より凶悪な姿へ変貌し、その大きさは、かの黒龍を凌ぐ巨躯となった。
アッシュ達を倒したノアは視線を正面に向ける。
巨獣が咆哮を上げ、ノアに向けてその大木の様な腕で叩きつけを放った。
ノアは飛んで回避する。
腕が当たった場所は陥没し、衝撃で吹き飛んだ瓦礫が広場の端にある鐘の塔に当たり、半壊させた。
「このままじゃ、町がめちゃくちゃになる…!くっ…!」
焦るノアに追撃を放って来る巨獣。
避けたノアだったが、大地を揺るがすその攻撃に周りへの被害は加速していく。
(どうする?どうすればいい!?)
ノアは巨獣を見る。
あの分厚さでは剣で心臓まで貫く事は不可能だろう。
突進による加速も叩きつけによって地形を破壊された今では使えない。
ならばどうすればいい?
苦慮するノアの頭に声が響く。
『ノア!炎だ!炎を使え!』
「ラナン!?ダメだ、ここじゃ人が巻き添えになる!」
『渦の様に拡散させるんじゃない!一点集中して奴だけを穿て!』
ラナンの言葉の後、炎が剣から吹き出す。
迸る炎は剣に蛇の様に絡みつき、どんどんとその密度を高めていく。
ノアは剣を両手で握り締め、腰を落としながら、脇を締めて剣を後ろに引いていく。
剣を上に向けた変則型の脇構え。
ただ、この一撃に全てを乗せる為の姿勢をノアはとった。
巨獣の両腕が迫る。
『撃てぇ!』
「うぉぉおおお!!」
ノアは叫び、腕を振るう。
剣から飛び出た炎は螺旋となり、巨獣の腕に直撃する。
灼熱の螺旋は巨獣の腕を焼き焦がし、貫く。
唸る炎はそのまま、巨獣の胸部に襲いかかる。
巨獣が悲鳴を上げ2歩、3歩と後ずさる。
炎が消えた後、巨獣の分厚い肉壁は剥がされ、その胸には剥き出しの心臓が脈打っていた。
ノアは走る。
心臓に向かって一直線に。
瀕死の獣は震えながら、抵抗しようと身を捩るが打つ手は無かった。
剣閃が走る。
巨獣の体が右肩からばっさりと斬られ、体が斜めにずり落ちた。
床に広がる血溜まりの中、僅かな呻めき声と共に獣は息絶えたのだった。
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