ゴフェル村②
家に帰る。
村の端、小川の側にある小さな家に。
中に入ると料理のいい香りが部屋を満たしていた。
ノアはバトーが作った料理を食べる。
時々、他愛ない会話を挟みつつ。
夕食を食べ終わり、食器を洗いに外に出る。
川から水を汲み、灰と混ぜた洗浄液で一つ一つ洗っていく。
全ての食器を洗い終えると持ち上げる。
空は暗くなり始めていて、家の方を見ると窓からランプの灯りをつけるのが見えた。
家に入りると食器を置き、居間に向かう。
テーブルの上にはランプとワインの入ったカップが置かれていた。
バトーはそのすぐ横で椅子に腰掛け、本を読んでいる。
ノアは棚から日記と羽ペンを取り出し、その前の椅子に座った。
ページをめくる音と羽ペンを走らせる音が室内に小さく響く。
ノアは日記を書き終えるとフゥと息を吐く。
ノアはバトーの方を見た。
バトーは本に栞を挟み、本を閉じようとしているところだった。
すっかり日は暮れ、外からはフクロウの鳴く声が聞こえてくる。
藁のマットに亜麻のシーツをかけた簡素なベッドに仰向けに寝転ぶ。
毛皮の掛け布団を被って。
ノアは今日を振り返る。
穏やかな1日だった。
和やかな1日だった。
探せばいくらでもありそうな平凡な1日だった。
だが…ノアにとってはそれこそが…。
ノアは昼間のガーダとの会話を思い出す。
「(うん…そうだ)」
「(みんなと一緒にいられればいい)」
「(それだけでいい…)」
離れた場所で寝るバトーをみる。
バトーは静かな寝息をたてていた。
ノアは目を閉じる。
意識がゆっくりと真っ暗闇に落ちていく。
「(それだけで…いいんだ)」
大切な人達を思いながら。
ノアは眠りについた。
※
松明灯りから火の粉が散る。
パチパチと音を立てながら。
天辺にスパイクのついた木の外柵。
その側で自警団のブライアンとチャーリーは警備にあたっていた。
ブライアンがぶるりと体を震わせる。
「う〜、昼間はまだあったけえが夜になると冷えるな」
「秋だしなぁ、もうちょっとたちゃすぐに冬よ」
「まぁーた雪掻きしなきゃいけねぇ季節になんのかよ。クッソダリィなぁ」
「なーに。その分、終わった後の酒と飯は美味いってもんよ」
「ちげぇねぇ。後は人肌の温もりがありゃ完璧だがなぁ」
「お前には縁のねぇ話だな」
「テメェもそうだろうが」
2人して笑い合う。
ふとチャーリーがある事に気づき、鼻をひくひくと動かした。
「おい?なんか匂わねぇか?」
「あん?匂い?」
チャーリーの言葉にブライアンも周囲の匂いを嗅ぐ。
「いや?特に何も匂わねぇぞ?」
「そうかぁ?何か焦げクセェ匂いがするような…」
「松明じゃねぇか?」
「いや、そういったのとは違う…もっと別の…燃やしちゃいけねぇものを燃やした時みたいな…」
そこまで言ったところでチャーリーはある事に気づく。
暗闇の中、少し離れた視線の先に小さな火が灯っている事に。
「誰だ!」
チャーリーは剣を抜き、構える。
ブライアンもそれに続いた。
小さな灯りの主は何も答えず、揺れながら近づいてくる。
「止まれ!」
チャーリーは静止の言葉をかけた。
だが、灯りはやってくる。
近づくにつれ、足跡も聞こえ始めた。
それも一つではなく、何人もの足音が聞こえてくる。
それに伴い、灯りの数も増えていく。
1から2へ、2から3へ、4、5、6…。
「止まれ!聞こえないのか!止ま………!?」
再度、止まるよう注告したチャーリーが言葉に詰まった。
何故、言葉に詰まったのか?
それは…目に見える灯りの数が急激に増え始めたからである。
10…20…30…50…100…200…灯りは次々増えていく。
自分達を囲うように、村全体を覆うように。
周囲からは笑い声とも鳴き声とも叫び声ともつかぬ不気味な声が聞こえ始める。
「何だよ…これ!?」
ブライアンは首を、視線を右往左往させ、冷や汗をかいて動揺する。
チャーリーも目の前の光景が信じられず、思考が停止していく。
そして…先頭の灯りの主がズシャリと足音をたてながら、チャーリー達に姿を見せた。
※
「…」
暗闇の中で声が聞こえてくる。
「…ア」
こちらを呼ぶ声がする。
「…ノア」
その声はだんだんと大きく、強く、はっきりと聞こえてくる。
そして、音だけではなく体を揺さぶられる感覚がやってくる。
「起きろ、ノア!」
「兄貴…?」
「起きたか、ノア。急ぐぞ、早くこれに着替えろ」
ノアは目を覚ます。
こちらを呼んでいた声の主はバトーだった。
バトーは真剣な面持ちでノアに武装一式を渡してくる。
外からは騒がしい声と鐘の音が聞こえてくる。
「兄貴…一体?」
「敵襲だ、急げ!」
バトーはそう言って革鎧と着込み、帯刀し槍を持った。
寝ぼけた頭が目覚めるにつれ、鐘の音が緊急事態の合図だったとノアは思い出した。
ノアは急いで着替え、バトーともに外に出た。
「…うっ!」
「………!」
走って、村の中央に来たバトーは呻き声をあげ、顔を腕で覆い、ノアは目の前の光景に絶句した。
村の家々からは火が立ち上り、人々が悲鳴を上げ一目散に逃げ惑っている。
「みんなぁ!教会へ!教会へ避難しろぉ!」
燃え盛る村の中で自警団団長ガンスが声を張り上げ、人々を誘導する。
ノアとバトーはガンスの側に駆け寄り、指示を仰ごうとした。
「団長!」
「おお!バトー!ノア!お前たち無事か!よかっ………た?」
「……ッッ団長ぉぉ!!」
だがそこで……ガンスの体が崩れ落ちた。
咄嗟にバトーは体を支える。
ガンスの背中には黒い棒のような物が深く突き刺さっていた。
胸まで貫通してあるそれは、もはや助かりようがないのは明白だった。
「団長!しっかりしてくれ!団長!!!!」
バドーは必死で声をかけるが、ガンスは浅く、連続する呼吸を繰り返したのち、ボソボソと何かを呟いていた。
「………ッ!、兄貴!!」
ガンスが射抜かれたことに放心していたノアだったが、ある事に気がつき、剣を抜き放つとバトーの前で構えた。
バトーは棒の飛んできた方向に目を向ける。
そこには……
「■■■■■■■■、■■■■■」
「なん…だ、コイツ?!」
人ならざる者がいた。
泥と植物と昆虫を混ぜ合わせてできた様な漆黒の歪な肉体。
所々から微かに煙が立ち上り、手には真っ黒な棒状の…ガンスの背中を貫いた武器と同じ物が握られており、口からは悍ましい声と呼気と小さな火を吐き出していた。
「■■■■」
「グッ…!?」
怪物はノアに向かって、黒棒を振り下ろす。
ノアは剣を横向きに頭上に上げ、これを防ぐ。
怪物の力は想像以上に強く、ノアの口からは苦悶の声が漏れた。
「フッ!」
数秒の拮抗状態の後、ノアが動いた。
相手の武器に対し、真正面から受け止めていた力を抜くと剣の角度を変え、怪物の黒棒を刃に沿って滑らせる。
黒棒が地面に叩きつけられ、ノアを潰そうと力を入れていた怪物の体が衝撃により、前屈みに固まる。
ノアはその隙を狙い、怪物の首を跳ね飛ばした。
「フッ〜…」
「ノア、油断するな!まだいるぞ!」
「!」
バトーの声に、ノアが周りを見るといつの間にかノアとバトーの周りには10体ほどの怪物達が集まっていた。
「■■■■■■」
「■■■■」
「■■■」
「…コイツら!?」
「…やるぞ。この化け物どもを倒す」
「兄貴!…団長は?」
「……………」
「………ッッックソ!!」
ノアの隣に立ったバトーの表情は固く、唇を噛み締めていた。
その顔から、ノアはガンスが帰らぬ人となった事を理解した。
ノアは剣を構え直す。
バトーも槍を構えた。
「ダァァ!!」
剣を振るう。
怪物を斬り裂いていく。
槍が怪物を刺し穿つ。
怪物を倒していく中でノアはある事に気づいた。
怪物達は戦いの立ち回りは素人も同然である事に。
力任せに黒棒を振るい、その度にその勢いで体をぐらつかせており、連続してこちらを攻撃することなど、ましてや仲間同士の連携でこちらを倒そうなどという行動は無く、ただ機械的に近づいてきたノアやバトーを攻撃しているような状態であった。
次々に怪物達は倒されていく。
ノアが最後の1体を斬り倒す。
「ハァ…ハァ…」
「…終わったか」
バトーはそう言って、ノアとこの場から動こうとした。
だが…その時、背後からズシャリと物音がした。
バトーとノアは振り返ると、最初にノアに首を刎ねられた怪物が立っていた。
「なっ…!」
ノアが動揺して声を上げる。
バトーも困惑の表情を浮かべた。
怪物はノアとバトーに歩み寄ってくる。
怪物の首から肉芽が芽吹き、肉体を再生していく。
その他の倒れた怪物達も同じように回復し始め、立ちあがろうとしていた。
「ハァ!」
ノアはもう一度、首を刎ねる。
だが…やはり怪物はその傷を治していく。
「不死身なのか…!?」
ノアはその事実に後ずさった。
バトーは動揺するノアの側に寄り添い、話しかける。
「ノア、教会へ行くぞ」
「!…コイツらはどうするんだよ!ほっておくの!?」
「この化け物達は殺せない。相手にしても無駄だ。なら、優先すべきは確実に生き残っている人達の救出だ。今、教会に集まっている人達を村の外に脱出させる」
そう言ってバドーは怪物の群れに向かって、槍を構える。
「最短距離で突っ走るぞ」
「…分かった」
バトーとノアは群れに向かって突っ込んだ。
※
村の西部、小さな丘の上に教会はある。
怪物達の群れを切り抜けたノアとバトーは道中の森の中の道を走り抜ける。
道端には村の人達の死体がいくつも転がっていた。
ノアは道中の死者達に視線を移す。
すると、ある事に気づいた…気づいてしまった。
「」
「どうした!」
急に立ち止まったノアに、バトーは声をかける。
ノアの視線の先にはある一つの死体があった。
それは…
「…ココさん?」
商人トムの妻、ココだった。
ココは血まみれで、生気の無い顔で背中を何本も黒棒が刺さった状態で死んでいた。
「ココさ…!」
「待て、ノア」
「あ、兄貴!?ココさ…ココさんが!」
「……」
「……〜ッッ」
思わず、駆け寄ろうとしたノアの肩をバトーが抑える。
ノアが振り返る。
バトーは黙って首を左右に振った。
ノアはワナワナと表情を震わせ、歯を食いしばった。
「急ぐぞ」
バトーが走り出し、ノアは一瞬、ココを見た後、バトーを追いかけだした。
ガンスに続く、親しい人の死。
その事実がノアの胸を締め付ける。
目から感情が溢れ出しそうになるのを必死に堪え、バトーと共に教会を目指す。
みんな、どうか無事でいてくれ。
そんな願いをもって登り坂をかけていく。
坂を登りきり、教会まで辿り着いた2人は中に入ろうと近づく。
だが、次の瞬間…炎が弾けた。
2人は咄嗟に身を屈める。
轟音と共に扉やステンドガラスが吹き飛ばされ、宙に舞い、地面に散らばる。
燃え盛る炎が壊れた扉や窓から這うように出てきた。
「そん…な、教会が…」
ノアは呆然と立ち尽くす。
そんなノアを狙い、蠢く影がある事をバトーは見逃さなかった。
「ノア!!」
バトーがノアを突き飛ばした。
地面に尻餅をついたノアが、顔を上げる。
そこには…背中と腰を黒棒に突き刺されたバトーがいた。
「…かっ……!」
「…あ……兄貴ぃぃぃ!?」
バトーが膝をつく。
ノアはバトーを支えようと手を回す。
「…あぁあ、兄貴!…兄貴!」
「かっ…グボぁ…」
「……っ」
バトーの口から、咳と共に血がこぼれ落ちる。
ノアはその光景に血の気が引く。
黒棒が飛んできた方向に目を向けると、炎渦巻く教会の中で怪物が口端を釣り上げていた。
怪物が教会の隙間から這い出てくる。
その数は1体では無く、先程斬り抜けた村の中にいた数、その倍以上がいた。
「(数が…多すぎる!?)」
剣で対応しようとしたノアだったが、多勢に無勢。
無理だと判断し、バトーの腕を自分の首に回し、背に担ぐ。
「兄貴、逃げるよ!」
「…お、置いていけ…この傷じゃ…俺は」
「何言ってんだよ!逃げるんだよ!…ツァ!」
怪物達が投げてくる黒棒を必死に躱し、森の中に逃げ込んだ。
「ハァ…ハァ…」
息を荒げ、玉粒の様な汗をかきながらノアは森の中を進む。
ノアの胸中は感情が入り乱れ、今にも噴火してしまいそうになっていた。
「クソ…クソ…クソ!クソ!」
恨み言が口から漏れる。
なんでこうなったのかと。
いつも通りの平和な一日を過ごしていた筈なのにどうしてこうなったかと。
怪物に村は焼かれ、村人は死に、ガンス、ココも帰らぬ人となった。
そして…バトーも死がすぐそこまで近づいてきている。
ノアの足元にはバトーの傷口から漏れた血が垂れ落ちていた。
「ノア…俺は…」
「兄貴…大丈夫だ。必ず…必ず助かる!今は耐えて。大丈夫。大丈夫だ!」
「ノア…」
ノアは背中にいるバトーに必死に声をかける。
バトーはそんなノアの姿を見ながら、昔の事を思い出していた。
親を埋めたあの日、自らの腕の中で泣いていた赤子が今は自分を背負っている。
「(…大きく…なったなぁ)」
バトーは危機的状況にも関わらず、何処か安堵していた。
「あっ…!がっはぁ!?」
ノアが木の根に足を引っ掛ける。
思いっきり倒れ込み、体は倒れた場所が水平では無く、不安定な道だった為に何回も転がり、幾度も段差から落ちた。
呻き声をあげながら、体を押さえて起き上がったノアはすぐにハッとして、落としてしまったバトーの元に駆け寄る。
落とした勢いで黒棒は抜けたバトーは、うつ伏せになっていた。
「ごめん、兄貴!すぐに…」
「…ノア、待て」
「兄貴?」
バトーの体を仰向けに治し、担ぎ直そうとしたノアをバトーは止める。
バトーは腰につけた小袋の中から、ペンダントを取り出しノアに渡した。
それはガンスが普段から胸につけている品物であり、バトーはガンスの死に際に遺品として回収したのだった。
「コレを…王家の紋章が刻まれてる。…団長が近衛をやっていた時に王から賜った物だそうだ…ゲファ!?」
「兄貴!?」
「ハァハァ…いいかノア。あれは尋常の者じゃない。放っておけば必ずこの国に災いをもたらす。
この事を王にお伝えするんだ。このペンダントがあれば、謁見を許される…はずだ」
「な、何言って…」
「いいな?」
「兄貴…」
血が地面に広がっていく。
顔が青ざめていく。
バトーが手遅れであるという事実をまざまざとノアに見せつける様に。
ノアの目からは涙が溢れていた。
「…ノア」
「嫌だ…」
「…戦いの基本、覚えてるよな?」
「嫌だ…嫌だ…」
「どんな時でも、冷静に…感情に飲み込まれず…だ。…怒りや憎しみに囚われちゃダメだ」
「だって…こんな…」
「憎悪は人を…怪物に変える。怪物にはなるな。人でいろ」
「…ダメだよ!こんなの!」
「ノア」
泣きじゃくるノアにバトーは微笑む。
「生きろ…俺の分まで」
「兄貴!ダメだよ!兄貴!」
「幸せ…になって…くれ」
「兄貴ぃ!」
「ノ…ア……。お前と……兄弟で……よかっ…た」
バトーの目から光が消える。
地面に手が力無く落ちた。
ノアの胸の中で、バトーは命を失った。
「あ、あぁ、あ…うあああああああぁああぁああああああ!!!!」
ノアは絶叫する。
今まで必死に抑えていた感情が堰を切った。
濁流のようなそれは目から、口から溢れ出る。
闇の中に悲しみの咆哮が響き渡る。
何度も、何度も。
掠れて、声が出なくなるまで叫び続けた。
「うぐぅ…ひっ…うっ…兄…ちゃん……」
ノアはバトーを抱きしめる。
2度と目を覚さないとは分かっていてもなお、離れ難い肉親の体を強く、強く。
枯れ果てた喉で、すすり泣きながら。
「■■■■■」
ノアの周りに、怪物達が周りを囲むように集まってきた。
後を追いかけてきたのか。
絶叫を聞きつけたのか。
じりじりとノアとの距離を詰めて、近づいてくる。
ノアはバトーの目をそっと閉じ、ゆっくりと地面に置くと、立ち上がり剣を抜いた。
「お前らが…」
ノアの前にいた怪物が黒棒を振り上げる。
「お前らが…!」
ノアは怪物が黒棒を振り下ろすより先に怪物の胴を真っ二つに切り裂いた。
怪物の上半身がどちゃりと音を立てて落ちる。
「お前らがぁぁぁぁ!!!」
ノアは怪物達の群れに突っ込んで行く。
腕を、肩を、足を、首を、頭を、斬って斬って斬り倒してゆく。
「ああああああああああ!!!」
嵐のような剣撃で怪物達を蹴散らすノア。
だが、不死の怪物はそれを嘲笑うかのように、傷を治し、立ち上がってくる。
それでも、ノアは戦い続け…。
そして、その時は訪れた。
ノアの横腹に衝撃が走る。
横腹を見ると黒棒が深々と突き刺さっていた。
「が…はぁ!」
ノアは膝をつきそうになるのを歯を食いしばって耐え、刺してきた怪物の頭を斬る。
今度は背中に衝撃が走った。
「がぐぁ…ああ!!」
背後に振り向き、怪物を袈裟斬りにする。
次は太腿に黒棒が突き刺さった。
ついにノアは膝をついた。
「ぐぁが…ハァハァ…!」
動きを止めたノアの周りにはワラワラと怪物達が群がってきた。
「■■■、■■」
「■■■」
「■■■■■■■■」
「■■■■■」
怪物達は黒棒を掲げる。
ノアはその様を見ていることしかできない。
「…………ちくしょう」
ノアの無念の一言。
それから少し遅れて、黒棒はノアの体に突き刺さった。
背中に、肩に、脚に、腕に、腹に、激痛が走る。
ノアはその場に倒れ込んだ。
血溜まりが広がっていく。
体から力が抜けていく。
そんな状態の中で、ノアは思い出していた。
友人達との日々を。
陽だまりのような毎日を。
「…してやる」
怪物達はノアに背を向け、森の中に消えていく。
ノアはその背中を忌々しげに睨みつける。
「…殺…してやる」
地面を指で抉り、握りしめる。
怒りで心の中は赤く染まっていた。
「絶対、殺して…や…る…!」
地面を這いずり、怪物達を追いかけようとする。
だが、僅かな距離を移動しただけでノアは力尽きた。
意識が遠ざかっていく。
視界が黒く、落ちていく。
その怒りは晴らされる事無く…ノアの意識は途絶えた。
※
『許せないか?』
暗闇の中で声が聞こえてくる。
こちらに問いかけるように。
ノアは答える。
『ああ、許せない』
あんな事した奴らを許す理由は無い。
『奴らを殺したいか?』
『殺してやりたい』
また、問いかけられた。
ノアはすぐに答える。
『この惨状を引き起こした者、それを倒す力があるとしたら…お前は手に取るか?』
『当たり前だ!』
声を荒げる。
怒りを込めた叫びを上げる。
『そうか…そうか……うん、わかった』
納得した問いの主はノアの体に触れる。
体に暖かい何かが流れ込んでくるのをノアは感じた。
『…なんだ?』
『ならば…やろう。その力を。そして、行こう。奴らを倒しに』
熱が広がると同時にまたもや意識が薄れていく。
『暖かい…』
そして、意識を失い、眠りについた。
ノアは眠りに落ちる瞬間…
『○○○○○』
何かを聞いた気がした。
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