第68話 幕間・花蛇、夢のあと
長閑な田舎道を、身軽な旅装に身を包んだ花蛇が速足で歩いている。
数歩遅れて
「花蛇、いつまでも拗ねてんなよ」
「拗ねてなどいない」
「あそこじゃああするのが最善だったろうがよ」
「分かっている」
「分かってても俺に感謝の一言もねえどころか、三日経っても目も合わさねえってのは拗ねてるって言うんだぜ」
道摩が得意とするのは空間に干渉する術だ。
忠子と男たちを分断したのも、
「お前ぇを失うわけにゃいかねえ」
何気なく、本当に何の気なしに告げた本音に、人の話に滅多に興味を示さない花蛇が足を止めて振り返る。
「なぜだ?」
別に不思議そうでも訝しげでもない。まして何かを期待するような情緒など微塵もない。
花蛇はこの世の辛酸をなめ尽くして荒み切っているし、その歪みが高じた結果の緊縛趣味の変態性欲者でついでにサディストだ。
人も騙せば嘘もつく、殺生に躊躇いもなければ倫理観にも欠けている。
世の中の穢れの煮凝りのような花蛇が、稀に酷く透明に見えることがある。
人でもなく妖でもない中途半端な存在。
陰と陽、彼岸と此岸の境目を揺蕩い、結局どちらの色も持たない。
陰陽道の真髄を生まれながらに持つ、否、真髄そのものであり術師が目指す真理の象徴のように透き通っている。
しかしそんなことを言えば、花蛇は自分から逃げる。全力で。
誰よりも人を求め執着し、一人ではいられないくせに自分が求められるのは死にも勝る恐怖と嫌悪なのだ、この美しい生き物は。
だからこそ愛してくれない人ばかりを求め壊し、傷を増やしていく。
「相棒にと決めたからだよ」
「笑わせる」
「おう、笑えや」
相手にしていられないといった調子で吐き捨てて再び歩き始めた花蛇を、道摩も追う。
「そしたらちったぁ可愛げも出る」
もう一度、花蛇の足が止まる。
草鞋の締め緒で複雑に縛り上げられた足首は白く、細い。
(この足を断ち落として、どこにも行けないようにしてやったら)
「馬鹿なことを」
頭の中を見透かされたような一声を、殊更高く響く声で笑い飛ばした。
背中を一度強く叩いて追い越していく。
ややあって後ろから小走りについてくる気配がした。
額に大輪の蓮の紋を咲かせ、全身に花弁模様を纏った白蛇を体に巻きつけた放浪の道士が目撃されるのは、これから十年ばかり後の話である。
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読んでくれてありがとうございました!
『おっぱい大好き小福さん』改め、『邪悪なイケメン再び! 眼鏡巨乳萌え竜乱入! 忠子を巡る男たち』編、これにて完結です。お付き合いありがとうございました!
次の章はまたバラエティ編で軽めのものば入れたかです。
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