第6話  小さな訪問者

 窓から朝日が差し込んでいた

報告書の山から一人の女性をゆっくりと

起こすには充分だった。

「もう朝か……」

 シオン達の出発まで日がない

現状を踏まえると危険性が高く

そのために調べている。

 ドアをノックする音が聞こえた。

「なんだ?」

 ドアを開きに報告書の山を倒壊させる。

「お客様がいらっしゃってます」

「客? どこに?」

 案内してきたという管理部門の女性以外が

目線に見当たらない。

「ここだぞ!」

 目線の下辺りから声がする

聞こえる方に目をやった。

「私だぞ! アリシア!」

「ポロさん?」

「そうだ…… いつも小さいことを……」

「すっすみません」

 そんなことよりと

落書きが書かれた布を見せてくる。

「ドラゴン?」

「正解だぞ! これがナラクに向かっていったぞ」

「ナラクですか? それはさすがにありえないのでは?」

「実際に見たんだぞ」

 場所の検討はついているが

報告書にナラクはなかった。

 しかしポロさんと呼んだこの人物は

嘘をつく理由がない。

「ナラクの管轄者はなんと?」

「じいちゃんは死んだぞ……」

「すっすみません…… いつお亡くなりに?」

「数年前だな」

 ポロという人物はホロという老人の孫で

ナラクの管轄を行う管理者の一族だ。

 ナラクの異変にすぐさま気が付き

鎮圧や制御をおこなう力を有している異能の一族でもある。

 一説にはコードの原点だとも言われている

だが通説に信ぴょう性がないとも学会では通されていた。

「ポロさんはなんのために協会学園へ?」

「じいちゃんからナラクにドラゴンが向かったら……」

 鞄から布を取り出す

陣が書かれているようだが

ポロが機械を使い始める。

「それは原点のリコーダー?」

「よく見てるんだぞ」

 布の陣が発光しはじめ

老人が映像で立体に現れた。

【これを見ているというのはポロが報告にいったんじゃな】

 内容的には

ナラクにドラゴンが行ったというのは

裏切りものであるタクドシェイン=ターグランが

計画を始めた時と同じことが起こっている。

 ナラクにアジトがある可能性

それが深く関連しているのではという推測だった。

「そうですね……」

「協会学園から派遣が欲しいんだぞ」

「わかりました」

 それを聞いた案内係が

申請書を取り出し促す。

 書類を机からどかせて

書き終えると判を押し案内係に提出した。


 ポロが来てから数時間後には調査隊が組まれた

しかしナラクに行くとなると相当な準備が必要になる。

 調査隊が出撃するのと

シオン達が依頼に向かうのが同時刻となった。

 そんなことがありながら

数日が経ってしまう。

 朝日が差し込む中で

アリシアは未完成の報告書を書き上げた。

「これで役に立つと良いんだけどな……」

 丁度にも依頼の出発時刻になっている。

「急いで渡しにいくか」

 アリシアは早足で

シオン達のところへ急いだ。


 朝日が差し込んだ

暗がりからゆっくり起き上がるのは

ポロさんと呼ばれた少女である。

「同行の時間は何時だったかな」

 ポロさんも調査隊に組まれていたが

宿舎で寝ぼけていた。

 ゆらゆらと食堂の方へ向かうと

途中で隊員に出会う。

「あっ! やっと見つけた!」

「どうしたんだぞ……」

「もう出発の時間ですよ?」

「ん? 今は何時だぞ」

「八時三十分です」

 一気に目が覚めながら

青ざめていくポロさんにパンを渡すと

集合場所に案内する

その足はアリシアと同じく急いでいた。


 朝日に向かって眩しそうに

手で太陽を隠すアリンとシオンは

アリスを待っていた。

「ごめーん! 遅れたわ!」

「どうせコードの調整していたんだろ?」

「正解よ! 今日はなんだかコードが揺らめくのよねぇ」

「不吉な兆候だな」

「そうね…… でも大丈夫よ? 鉄壁のアリスが守ったげる」

「それは頼もしいな」

 アリンを放置しながら

かつての依頼仲間と談笑している。

「アリスさん! シオンと依頼の時はいつも同行していたというのは?」

「ほんとよ! ほとんど補習での依頼だけどね」

「補習での依頼はきつかったな」

「そうなの? シオン」

「ええ…… ほとんど雑魚モンスターを掃討するものなんだけど」

「依頼の数が数十件だ」

「それって何百体ってことじゃ……」

「当たりだ……」

 うえーと顔でうんざりしながら

依頼へと出発した。

 集合場所に数分遅れでアリシアが到着する。

「あれ? あいつらは?」

 キョロキョロしているアリシアを偶然にも

クラスの生徒が通りかかった。

「あーちゃんだねぇ」

「そうだねぇ」

「レオンとリオンか……」

「シオンとアリスなら出発してたよぉ」

「そうだよぉ」

「なんでそれを?」

 レオンとリオンは出店を指さす

徹夜明けでの甘いものだったらしい。

「アキさんの店か」

「あーちゃんも食べるかねぇ」

「おいしいよねぇ」

「すまんな……」

 レオンとリオンがいるならと

少しだけ話をしてから

コードを使わせてもらう。


 シオン達は順調に進んで

移動用コードが使えるところまで来ていた。

「おかしいな……」

「守衛さんがいないね」

「なんでいないのよ」

 アリスが怒りながら

守衛室へと向かう。

 シオン達はアリスを待つことにする

待っていると後ろから青い光が降り立った。

「シオン!」

「あーちゃん? どうしたんだ」

「これを呼んでくれ……」

 レオンとリオンは

おかしな空気を感じて守衛室へ向かう

しかしその必要はないと言わんばかりに

爆発と共にアリスが飛び出してくる。

「クラン! アクセスオンよ!」

 シオン達が身構える

膨れ上がった見たことのない空間が

広がりながら向かってきた。

「これって空間コードだねぇ」

「そうだねぇ」

 レオンとリオンが全員に

近くに来るよう手で振って呼び寄せる。

 アリスもギリギリ吞み込まれずに済んだが

守衛室が空間に引きずりこまれ

空間ごと大きなクレーターへと変貌した。

「なんだあれは? こんなことが?」

「あれは空間ごと消し飛ばす禁止コードだねぇ」

「同じ空間使いとしては許せないねぇ」

 レオンとリオンは

苦い顔で過去を思い出している。

「母さんのコードだねぇ」

「いやだねぇ」

 アリシアにはポロさんが

浮かんでいた。

「二人ともポロさんがいる座標に飛べるか?」

【了解】

 シオン達は何が何だかわからなかった

しかし何者かが邪魔しているのはわかる。

 青い光と化した

シオン達はポロさんがいるところまで

飛んで行った。

 降り立った場所には

クレーターが出来ていたが

ポロさんたちは無事である。

「助かった……」

 へたり込んでいた隊員が

ポロさんへと羨望の眼差しを向けていた。

「心配には及ばなかったみたいだな」

「おお! アリシア!」

 ポロさんがアリシアに駆け寄る

ギュッと身の安全を確認していた

親子の再会にも似たシーンが展開されている。

「ポロさんのコードって生きてたんですね」

「そうだぞ」

「ポロさんから見てどう思いますか?」

「ナラクの再来だぞ」

「やはりそう思いますか……」

「報告書のナラクにいったドラゴンか?」

 レオンとリオンそしてアリスは初耳だった。

「タナトスコードじゃないわよね」

「いやもはやそれだねぇ」

「そうだねぇ」

 レオンとリオンは

大罪の残骸や証拠染みたものを

見つけているため信憑性は高い。

「まさか依頼の先に大罪種がいるんじゃ……」

 アリンがまさかと心配を込めて

言ってみたが全員が渋い顔をしている。

「あーちゃん…… これは戦争の幕開けなんじゃないか?」

「依頼を中断するか?」

「いや行かねばわからない」

「そうか…… なら私も同行する」

「無理をしないでくれ」

 目にクマが出来ていることを

指摘したがシオンの言うことを無視した。

「生徒の危機に先生が黙ってられるか……」

「さすがあーちゃんだねぇ」

「そうだねぇ」

 レオンとリオンも同行することになった

移動用コードが使えないため

私たちが必要だと自身で

立候補する。

 青い光は調査隊とシオン達を包み

依頼先へと飛んでいった。


 山の近くに存在する村では

朝が遅いのは仕方ないことである。

「今日もやっと太陽のお出ましか……」

 山の阻害を切り抜けた太陽に

皮肉をかましている頃には

昼に近い時刻だった。

【グアァアアアア!】

 突然だが

けたたましい叫び越えが響き始める。

「なんだ?」

 村人は人生で初めて

ドラゴンという生物を目の当たりにした。

 そしてドラゴンが言葉を発するということも

今になって知る。

【この村は強欲の大罪種のものになったぁあ!】

 絶望が今始まった。




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