第44話 貝買いとクラータ

「貝買いとクラータ」


 真っ白な長い毛をもつクリケット・グラーモ・クラータとヤドリガイの生活は長いものになってきました。ヤドリガイは貝殻や空き瓶に住む貝類の一種です。以前クラータの帽子トップハットの中に住み着いてしまったものを、グラーモ・トターモの瓶屋にあった瓶に移して大きくなるのを待っていたのです。大きなヤドリガイは貝買いをしている人間の所に持っていくと賞金が出るためです。

 初めて会ったときは帽子の中に納まるほどの小ささでしたが、成長するにつれて、トターモ瓶屋に瓶を交換しに行き、今はグラーモが二匹以上かかって持ち上げる大きな瓶の中で目を閉じて眠っているように見えました。

「そろそろ貝買いの所に持っていけるころでしょうか。瓶代も結構かかってしまいましたし、高く売れると良いのですが」

 トントン、と家の扉を叩く者がありました。友人のグラーモ・ユナータが迎えに来たのです。クラータはユナータと一緒に大きな瓶を台車に乗せて、いつも群れのみんなと合流する広場へ二匹で出かけました。ユナータが一緒なのは、クラータひとりで出歩くとついあちこちに気を取られ、迷子になってしまうからです。

 家の外に出ると、温かな日差しに当たったヤドリガイが眩しそうにうっすらと目を開けました。広場に着くと先に集まっていた仲間たちが瓶を取り囲みました。「やあ、ずいぶん大きくなったね」などと言いながら、目をぱちくりさせるヤドリガイを見てくすくす笑いました。

 こうしてグラーモの群れは貝買いの元へ歩き始めました。昨日のうちに森の掲示板から場所を確かめていたため、みんなは迷うことなくそこにたどり着くことが出来ました。

 そこはいくつもの大きな壺や大瓶に囲まれた一軒家でした。小さな看板に『ヤドリガイ買い取ります』と書かれています。ドアをノックするとずんぐりと大きな腹をした人間が出てきました。

「いらっしゃい、グラーモの皆さん。ヤドリガイのご用件で?」

「そうです、これなんですがどうでしょう」

 クラータは瓶を置いた台車をゴロゴロ転がしました。貝買いはちょっと目を見開いて珍しそうに声をあげました。

「へえ、クリケットの皆さんがここまで大きく育てるのは大変だったでしょう。これはちょっとはずんでやらないと、貝買いの名折れってもんですわ。ちょっと待ってくださいね」

 貝買いは店の奥へ行き、金貨の入った袋を持って戻ってきました。クラータは目を見開きました。今ヤドリガイが入っている大瓶の代金を差し引いても、まだまだ有り余る額が入っているように見えたのです。

「こんなにたくさん……。ありがとうございます!」

 クラータの仲間たちもよかったねと、喜んでくれました。それからクラータは、蜜月酒屋で仲間たちと満月酒を浴びるように飲みました。それでも金貨はまだまだありましたので、新しい帽子を買い、余った分は暖炉の隅にある隠し戸にしまい込みました。

 クラータは、またヤドリガイを育ててみるのも面白そうだと思いながら、広く感じる部屋を見渡しました。


おわり

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