第43話 台風とピケット
「台風とピケット」
クリケディアに台風がやってくるという噂が広まりつつありました。天候予想学者のミゼットたちが言うには、ここ数年で一番大きな台風になるだろうという予想でした。
「さてと、これでいいかな」
クリケット・カラアリ・ピケットは自分の家を見あげました。窓には板を打ちつけ、洋服ダンスでできた家自体は風で倒れないように他のクリケットなどにも頼んで木に縛り付けてしまいました。
「ポポッコの方はどうかな……」
ピケットはポポッコの家へ向かって歩き始めました。
ピケットの友人、カラアリ・ポポッコは窓を海硝子に彩られた美しい家に住んでいましたが、今はテープであちこち補強してありました。作業が終わり、一息ついたところでピケットがやってきました。
「やあピケット、いらっしゃい。今ちょっと疲れてるから、勝手にくつろいどいて」
「お疲れ様、ポポッコ。今日は遊びに来たんじゃないんだ。ほら、台風が」
「君の家にも大きな窓があったね。ちゃんと板を打ちつけておいたかい? テープだけじゃ足りないだろう」
「うん、僕の方は大丈夫。ただちょっと……ひとりじゃ心細くって……」
「いいよ、しばらく僕の家に泊まりなよ。窓は割れるかもしれないけど」
「ありがとうポポッコ。僕の家、木に縛ったんだ。けどやっぱり一人だと怖くて……」
ピケットは小さいときよりは怖がりでなくなりましたが、こうして実害のあるものとなるとやはり別物でした。台風のための避難所として、大きな集会所に集まるクリケットも多いのですが、ピケットはやはりポポッコと一緒にいるのがいいようでした。
ピケットがポポッコの家に泊まって数日。いよいよ台風が本格的にやってきました。風はごうごうと森や野原をめぐりました。ポポッコの家の周りに木はあまりありませんでしたがその分吹き曝しで、飛んできた枝葉や小石なんかが当たる音が響きました。二匹は寝室で身を寄せ合って一つの布団にくるまっていました。
隣の部屋で、硬い物が窓に当たる音がしました。さらにもう一度何かが窓にあたり、窓は大きな音をたてて完全に壊れてしまいました。ポポッコは勢いよく飛び出しました。
「どうしたのポポッコ! 危ないよ!」
「割れたのは一つだけだ! 風の逃げ場がないと屋根ごと吹き飛ぶぞ!」
ポポッコは対面にある窓を椅子で思い切り叩き壊しました。風がどうっと部屋を駆けめぐり、紙の束が舞いました。ポポッコは怯えるピケットを寝室に押し込み、自分も体をねじ込むとドアをしっかりと閉じました。一晩中、ずっとくっついていました。
あくる朝、台風はすっかり通りすぎ、なんてことないような青空が広がっていました。けれどもポポッコの家の中はぐちゃぐちゃになっていました。
「あーあ、これは手間がかかるぞ。ピケットも自分の家を見てきなよ」
「うん、そうするよ。泊めてくれてありがとう」
ピケットが自分の家に戻ると、何とか吹き飛んではいないもののロープは外れかけ、大きく傾いておりました。きっと中はポポッコの家に負けないくらいぐしゃぐしゃでしょう。
「もう! 台風なんて大っ嫌い!」
ピケットは頭を掻きむしって寝っ転がりました。空は嫌味なほどに青く透き通っていました。
おわり
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