第40話 春の香りとピケット

「春の香りとピケット」


 外を歩くのが楽しい季節がやってきました。日の光がカラアリの黒い体をぽかぽかと温め、グラーモのふわふわとした白い毛は生え変わり、エガアイの小さな子どもたちは古い殻を脱ぎはじめます。麗らかな春がクリケディアに訪れました。

 クリケット・カラアリ・ピケットは家の外に出るとすうっと息を吸いました。どこからともなくよい香りが漂ってきて、体の中に巡ります。

「ああ、いい季節が来たなあ」

 ピケットは足元に生えていた小さな小さな青い花をつん、とつつきました。小さな花は小さな葉と一緒にふるりと揺れて、そのよい香りは風に散らされて遠くまで流されてゆきました。

「やあピケット」

 春の日差しにまどろみかけたピケットの耳に、友人のカラアリ・ポポッコの声が届きました。

「こんにちは、ポポッコ。春だねえ」

「本当にいい季節だ、そこら中から花の香りが漂ってくるね」

 ポポッコもすん、と鼻を鳴らして、目を細めました。そのとたん、びゅうっとひときわ強い風が吹いて、木々はざわざわ鳴りました。どこからか真っ白な花弁が流れてきて、ピケットとポポッコの周りをくるくる回りました。

「ははっ、春が踊っているよ」

「本当だ。これからどんどん温かくなっていくぞ」

 それから二匹はおやつを用意して、あたりを散歩に出かけました。森の中の日影の多いところには、まだ雪が残っております。雪を避け、小川の橋を渡り、日の当たる開けた場所に出ました。そこには一面の花畑になっており、その一つ一つが風の中でゆらゆらと揺らめいておりました。

「ここでおやつにしようか」

「そうだね、春の始まりにぴったりの場所だ」

 おやつを広げ食べている間、そこら中から花のよい香りが二匹の体を包みました。ピケットは口いっぱいにジャムクッキーをほおばり、ポポッコは色とりどりの花の中からきれいな紫の花を摘んで家で飾る花輪を作りました。

 ピケットもポポッコもたっぷりと春の始まりを堪能し、笑いながら家に帰りました。ポポッコの花輪はピケットの家にも飾られ、春の香りをしばらくの間ふりまいておりました。


おわり



※31~40話覚書

https://kakuyomu.jp/users/kiyato/news/16817330658632878242

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る