第38話 氷柱の花とピケット
「氷柱の花とピケット」
よく晴れた冬のある日、クリケット・カラアリ・ピケットはむかし先生に習ったとおり、洋服ダンスでできた家に垂れ下がる
ひとつひとつ棒で小突いて落としていくと、硬く踏みしめた雪にカシャンと音をたてて割れてゆきます。ピケットはそれを楽しみながら、今日はどこかへ行こうか考えていました。日は強く照りつけ、一面の白い雪を針水晶のように輝かせます。
午後一番、小さなおやつの包みを持ってピケットはカラアリ・ポポッコの家に遊びに行きました。天高くのぼる太陽はカラアリの黒い体をポカポカと温めます。ときおり吹く冷たい風が心地よいくらいでした。
ポポッコの海硝子で彩られた家の窓も、日の光を受けて周りの白い雪を色鮮やかに照らしておりました。ピケットは赤に青に美しく輝く道を歩いて、ポポッコの家の扉を叩きました。少しすると、ポポッコが顔を見せました。
「やあピケット、いい天気だね」
「ポポッコ、本当にいい天気だね。少し散歩しないかい?」
「いいね。少し待ってくれるかい」
そうしてピケットとポポッコは歩き始めました。雪の花開く森の中、よく日の当たる倒木に腰掛け、おやつの包みを開きました。森の木々につるされる氷柱から、ぽたぽたと水が垂れるのを二匹は並んでみておりました。
おもむろにポポッコは笛を取り出しました。少し試し吹きして、そして音楽を奏でました。ヒョルリヒヨルリ、高い音をたてて笛の音は森の中を美しく鳴り響きます。ピケットは静かにそれを聞いていましたが、しばらくするとあることに気がつきました。まず、水のつたう氷柱がふるふると震えはじめました。そして小さなしずくが氷柱の先端でぱちりと音をたてるようにぱっと開いて凍り付いたのです。凍り付いたその先端からもぱっと水は花開き、そして凍ります。氷柱の枝からまるでそこが春とでもいうかのように氷の花は咲いてゆきます。
ピケットは慌ててポポッコの体をゆすりました。ポポッコは演奏をやめて、びっくりしたようにあたりを見渡します。
「ポポッコ、これはいったい何だろう」
「何だろう。僕、全然気がつかなかったよ」
「君の笛の音に合わせて咲いたんだ。ポポッコ、君の笛にだよ」
「こんなことになったのは初めてだよ。……天気のせいかな?」
日はまだ高く森を照らします。氷柱の花はやがて静かに溶けてゆきました。二匹はそれを見つめながらぼうっとしていました。
ポポッコはまた笛を吹きました。けれども今度は氷柱はただ静かに水滴を落とすだけであの氷の花は咲きませんでした。
おわり
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