第33話 雪の結晶とピケット

「雪の結晶とピケット」


 ちいさないきものたちの住む国、クリケディアの雪は降り続けます。夜の間にしんしんと積もり、洋服ダンスに住むクリケット・カラアリ・ピケットの家の一段目の引き出しは完全に雪に埋まりました。

 ある日ピケットが雪をどかしていると、林の奥の方からリン、リン、と小さな鈴のような、宝石箱から宝石のこぼれるような音が聞こえてきました。

「おや、なんだろうこの音は」

 ピケットは音のする方向へ首を傾げ、すっかり葉の落ちた枝に雪の花を咲かせた林の方へと向かいました。雪の上にはピケットの小さな足跡がちびちびと残ってゆきます。ちびちび、ちびちびと残った足跡は雪が降らずとも消えてしまいそうでした。

 リン、リンと軽く響くような音はだんだんと近づいてきます。それでも音は小さなままで、ピケットの家まで届いたのが不思議なくらいでした。

「すごく不思議な音だなあ。でもとても綺麗だ」

 銀水晶のグラスをかち合わせたように透きとおった音は、どんどん周りを包み始めました。それでも何が鳴っているのか全く分かりません。ピケットは立ち止まり、あたりを見渡してみました。

「おおい、だれかいるの? 出てきてよ」

 リン、リンリン。リン、リン、リン。小さな音がピケットを包みます。それはよく見ると小さな小さな雪の結晶でした。小さな六角形の水晶細工のような結晶が、くるくると回り、それがぶつかり合うたびに小さな音をたてていたのです。それはまるで小さな結晶が踊っているようでした。

 ピケットが小さな手を差し出すと、その手よりも小さな雪の結晶はそっと手の上に乗ります。ほんの少しの間くるくると手の上で踊ると、溶けて水になってしまいました。そのあまりにも透明な水は水晶のように透きとおっていると思ったら、砕いた金剛石のようにキラキラと光りだしてそして消えてしまいました。

 リン、リンリン。リン、リン、リン。小さな音が体中を包み、水晶のような結晶達はピケットの体の中に入っていきました。体中から鈴のようなかわいらしい音色が響きあい。いつの間にかピケットは倒れていました。

「……あれ? どうしたんだろう」

 ピケットが目を覚ました時にはとうに暗くなっていました。ピケットはくしゃみをひとつふたつすると慌てて家の方にもどっていきました。けれどもしばらくの間、体の中からあの音が響くのはやみませんでした。ピケットはそれよりも暗くなるまで倒れていたのですっかり風邪をひいてしまったのが一番大変でした。


おわり

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