第27話 新年とクリケット

「新年とクリケット」


 雪の降らない、晴れた夜でした。さんさんと降り注ぐような星の海がちいさなクリケットたちを見おろしております。しんと冷たい空気が肺を満たしては体をめぐり、白く靄となって吐き出されます。

 多くのクリケットが集まっておりました。まっ白な雪の中でもなお白いクリケット・グラーモたちは体中の毛を膨らませてちっちゃなグラーモの子どもたちを中に匿います。硬い殻を持つクリケット・エガアイの子どもたちはコチコチぶつかり合いながらも寒さなんかへっちゃらでした。グラーモほどの柔らかな毛も、エガアイのような殻ももたない真っ黒なクリケット・カラアリたちは寒さにブルブル震えながらも小さい子たちを真ん中に寄せて、互いに身を擦り合わせて寒さをしのいでいます。先生からもらったマフラーを身につけている者もありました。寒い寒い広場で、それでもみんな静かに待っていました。

 クリケット・カラアリ・ピケットも友人のカラアリ・ポポッコと一緒に温かな飲み物を手に身を寄せ合ってました。

「まだこんなに真っ暗なのによくまあこんなに集まるもんだねえ」

「それは僕たちもおんなじだろ。それにこれだけ集まればさすがに温かくなってきたね」

 ポポッコは持っていた飲み物をぐいと飲み干すと少し帽子トップハットをあげて風を通しました。

「やっぱり飲み物はいらなかったかな」

「ポポッコにしては珍しいね。去年も同じこと言ってたの僕は覚えてるよ」

「ピケットにしては珍しいね。まあきっと来年も同じことを言うさ。寒いよりずっといいからね」

 ひそひそと話しているうちに時は経ち、夜はだんだんと明けてゆきます。星が一つ、二つ消えて、東の空からどんどん白んでゆきました。クリケットたちはしゃんと立ち、背を伸ばし遠くの山を見あげます。

 そしてみんなは見ました。遠く遠く空の彼方から朝日が昇りました。そうです、これがクリケットたちの新年でした。新しい一年の始まりです。みんなが歓声を上げ、帽子をふりあげます。

「おめでとう!」

「おめでとう!」

「新年おめでとう!」

 みんな口々に祝いの声をあげました。キラキラと輝く朝日がみんなを照らします。クリケットたちの顔は朝日に負けないくらい輝いておりました。

「新年おめでとう。ピケット」

「おめでとう、ポポッコ。今年もよろしく」

 二匹とも手をしっかり握りあいました。今年も新しい年を一緒に迎えられたことをともに喜び、互いの幸せを祈りあいました。


おわり

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