第25話 大きな花とトモトモ
「大きな花とトモトモ」
風が肌寒さを運んでくるころ、丸い卵のような体に一つの大きな目を持つクリケット・エガアイ・トモトモはまた新しい曲作りのためあちこちを散策しておりました。友人であるエガアイ・テムテムと共に、落ち葉につつまれた道をサクサク進んでいきます。
「この季節はいつも心に残る音楽を届けてくれるなあ」
「またトモトモったら、君はどの季節でも同じことを言う」
テムテムの方はあまり音楽に関心が持てないようで、あくび心地でトモトモの話を聞いていました。ですから、トモトモとはぐれても少しの間気づきませんでした。
「おや、トモトモ? どこに行ったんだい」
「テムテム! テムテムってば! ちょっとこっちに来てごらんよ!」
トモトモの声に導かれて、テムテムは歩みます。そして行き着いた先には大きな大きな黄金色の花が咲いていました。大きなその花びらには黄金のしずくがいく粒も溢れんばかりについておりました。そしてその粒が零れ落ちるたびにシャラシャラと音をたてて地面に落ちてゆくのです。後には金色のきらきらしたものが少し残って、そして消えてゆきました。
「トモトモ、この花はいったい何だろう」
「さあて、わからないな。でもとても綺麗だ。そうだろう?」
シャラシャラ、シャララシャラ。音が鳴り響くたびに心の底からきらきらとした喜びが沸き上がってくるのを感じました。
「おや、そこにいるのはトモトモじゃないか」
「やあ、ピケット。君もこの花を見に来たのかい」
真っ黒なクリケット・カラアリ・ピケットがトモトモたちの来た方と逆の方からやってきました。ピケットもトモトモの友人で、トモトモの音楽を愛するクリケットのうちの一匹でした。
「うん。ポポッコと散歩しているときにここを見つけてね。何でもこの花は喜びの花というらしいよ」
「たしかに、見ていると心の底から喜びが沸き上がるようだ」
「そうじゃなくって、なにか嬉しい、喜んでいる人が近づくと咲く花なんだって」
「そうなのか、そういえば僕一人のときは蕾のままだったなあ」
「え、そうなのかい。トモトモ」
テムテムは思わず聞き返します。
「テムテムが来てくれて、一緒にこの大きな花を見れると思ったら嬉しくなったんだよ」
テムテムはそれを聞いて思わず顔が赤くなりました。自分はトモトモの音楽にはさほど関心を持てないのに、この友人ときたら、一緒にいるだけで嬉しいと言ってくれるのです。
花はますます輝き、シャラシャラと音をたてて黄金のしずくを落としていくのでした。
おわり
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