第14話 お化けとトモトモ

「お化けとトモトモ」


 ある夜、丸い卵のような体に一つ目をぱっちりと見開いたクリケット・エガアイ・トモトモは一人で歩いておりました。月が空高くあがり、星々はかすんで見えました

(ああ、すっかり遅くなってしまった。今日はどこかで寝ようか)

 そんなことを考えながら歩いておりますと、ふと目の端に光るものが通りました。銀色の月明りに照らされてぼうと光るそれは、形をとらえることが出来ません。

「な、なんですか? 誰かいるんですか……?」

 トモトモの弱々しい問いかけに光る影は何も答えず、ゆらゆらとうごめくと急にふっと消えてしまいました。トモトモの背筋にぞっとするものが走ります。

「ひゃああああ!」

 トモトモは叫んで走りだしました。とてもとても恐ろしい思いでした。走って、走って、その日はいつどこで眠りについたのかわかりませんでした。

 次の日、トモトモは友人であるクリケット・カラアリ・ポポッコに相談しました。ゆらゆらとうごめく、白く光る影のこと。恐ろしさに逃げてしまったこと。恥ずかしさのあまりに顔から火が出る思いでした。

 けれどもポポッコはトモトモの話を馬鹿にしたりせず、黒い体を寄せて真剣に聞いてくれました。

「トモトモ、日のあるうちにその光る影を見たところに行ってみたらいいよ。僕も一緒に行くからさ」

「ありがとうポポッコ。ではさっそく向かおうか」

 トモトモとポポッコは光る影のあったところに向かいます。日はまだ明るく天からクリケディアを照らしておりました。しかしそこには何もありません、特に目立つものは岩も木も何もありませんでした。

「おかしいなあ、確かにここだったのに」

「もしかして本当にお化けだったなんてことないだろうね」

「おやポポッコとトモトモ、どうしたんだい」

 日の暮れかけた頃、二匹に後ろから声を掛けたのはカラアリ・ピケットでした。ポポッコとトモトモは驚きのあまりぴょんと飛び跳ねます。トモトモは腰を抜かしそうになりました。

「ああ、ピケットか、びっくりした」

「久しぶりだねトモトモ。こんなところで何しているの?」

 トモトモはピケットにこれまでの経緯を話します。やっぱり恥ずかしくて白い顔が真っ赤になってしまいました。

「ふうん、白い影ねえ。白いシーツなら僕は昨日干したけどな」

「えっ?」

「だからね、白いシーツを干して忘れてたから夜中に取り込んだの。すっかり夜露でしけっちゃって散々だったよ」

「それってもしかして……ここで干していたの?」

「そうだよ、よく知ってるね」

 つまり昨日の白い影はピケットのシーツに月明りが反射してできたものだったのです。トモトモとポポッコは顔を見合わせて思いっきりため息をつきました。


おわり

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