第12話 風船の木とピケット
「風船の木とピケット」
風船の木が実をつけたという噂が、クリケットたちの間に広がりました。風船の木というのは生った風船の実に願いを込めながら膨らませると、それが飛んでいっていつか願いが叶うというものです。
それを聞いたクリケット・カラアリ・ピケットは急いでカラアリ・ポポッコのところに行きました。
「ポポッコ、聞いたかい? 風船の木に実が生ったって!」
「聞いたよ、ピケット。僕もいま行こうと思ってたんだ」
黒い体を風のように走らせ、二匹は風船の木の所までいきました。そこにはもうたくさんのクリケットたちがいて、枝に座って思い思いに風船を膨らませておりました。
赤や黄、紫に緑。色とりどりの風船がみんなの夢や願いであちこちの枝葉から膨らんで、空へと飛んでいく姿はそれこそまさに夢のような光景でした。
「まだ残ってるかな」
「どうだろう、とにかく登ってみよう」
探りながら登ってみるとちょうど二つ、赤と青の風船の実が生っているのが見つかりました。
二匹はそれをもぎ取って、黒く尖った口をつけてぷうぷう膨らませはじめました。青い風船を膨らませたポポッコは、木の蔓で風船の口を縛りました。ピケットの方はというと、まだぷうぷう膨らませています。
「ピケット、まだ膨らませる気かい? もうたくさん願ったろう」
「(ふーっ)まだまだだよ、(ふーっ)もっとたくさん膨らませたいんだ」
ピケットの膨らませた赤い風船は、だんだん持ち上がり、浮き上がり、ピケットを連れていきそうになりました。
「もうやめなよ、ピケット! 飛んでいっちゃうぞ!」
ポポッコの忠告も、もう遅かったのです。ピケットは風船と一緒にだんだん空へと浮き上がってしまいました。数々の風船の中でも一際大きな風船が、一匹のクリケット・カラアリを連れて飛んでいきます。
ポポッコは急いで自分の風船の蔓を解きました。
「待ってるんだピケット!」
蔓を解かれた風船はぴゅうっと空に舞い上がり、ポポッコをピケットの元へ連れていきました。クリケット・カラアリが二匹ぶら下がる形になると、風船は徐々に地面の方へと下がっていきました。
二匹は地面に降り立つと改めて赤い風船の口を縛り、空へ舞い上がっていくのを見届けました。
「ごめんね、ポポッコ。僕のせいで君の風船がなくなっちゃった」
「いいよ、ピケット。君が無事で良かった。願いはいつか自分で叶えるさ」
二匹はいつまでも大きな赤い風船を見送りました。色とりどりの風船に囲まれて、やがて空に溶け込んで見えなくなるまで、いつまでも見送っておりました。
おわり
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