第11話 星の木とクリケット

「星の木とクリケット」


 風の涼しくなる頃の昼、クリケット・カラアリ・ピケットとカラアリ・ポポッコは中の空洞になった草の茎を切り取って、笛を作っていました。

「いよいよだね、ポポッコ」

「ああ、いよいよ今夜、星の橋がかかるよ」

 ポポッコは小さなナイフで茎にコリコリと穴を開けていきました。黒く尖った口で何度か試し吹きをして、また調整していきます。

「ポポッコはやっぱり器用だねえ。僕はどうしてもうまくいかないや」

「うまくいくかいかないかは関係ないよ。今回の場合はね」

 ピケットは調子外れの音を出しながら草の笛を吹きました。

「トモトモも、今回ばかりはバイオリンを弾かないんだろうなあ」

「聞きに行ってみるかい?」

「うーん、いいや。今日はポポッコと一緒がいいな」

 日がだんだん暮れて来ました。青かった空は夕焼けに包まれ、星が一つ、二つと出てきます。あたりが完全に暗くなり、クリケットたちがぞろぞろと野原に出てきました。

 ピケットとポポッコは隣同士、身を寄せ合って座ります。

 誰から吹き始めたでしょう。それぞれが草で作った笛から静かに音楽が流れました。ピケットとポポッコも静かに吹き始めました。

 するとどうでしょう、遠く空の彼方からなにかキラキラと輝く星型の大きな建物がゆっくりと下がってきました。

 音楽はどんどん大きくなっていきます。ピケットのように調子外れの音も交えながら、音は一つになり、星型の建物まで届きます。

 そうすると建物からカチカチと音を立てながら、細く銀色に輝くはしごが降りてきました。その様子は遠くから見るとまるで星の形をした木のように見えました。

 何匹かのクリケットたちがはしごの周りに集まりました。天高く星型の建物からちいさなちいさなクリケットたちがぞろぞろと降りてきました。みんなまだ帽子トップハットをかぶっていませんでした。ちいさな無垢のクリケットたちはカラアリはカラアリのもとに、エガアイはエガアイのもとに、それぞれ大人のクリケットのもとに集まりました。こうして彼らは先生と生徒の関係、マーチを組むのです。

 しばらくして音楽は小さくなり、星の形の建物も空の上へと消えていきました。

「僕たちもああやって来たんだよね」

「うん、降りてくる前のことはなんにも覚えてないけど、ああして先生のところにきたんだよ」

「僕たちももう少し大人になったら、ちっちゃい子たちの面倒を見るようになるのかな」

「きっとそうなるよ、いつか、きっと」

 チイチイ、ピイピイ、鳴き声を上げながら大人のクリケットのもとに集まるちいさなクリケット達を見ながら、ピケットとポポッコは話しました。

 いつか自分たちが組むマーチを夢見ながら、いつか自分たちが組んでいたマーチの話をしながら、ピケットとポポッコは家に帰りました。


おわり

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