第10話 新曲とトモトモ
「新曲とトモトモ」
クリケット・エガアイ・トモトモの演奏会は今日も大盛況に終わりました。みんなで楽しく歌って踊って、飽きることはありません。
クリケットたちは解散し、残ったのは丸い卵のような形にひとつ目のついたエガアイ・トモトモと真っ黒な体に尖った口先のクリケット・カラアリ・ピケットだけになりました。
「トモトモ、今日もすごかったね。みんな大満足だよ」
「ありがとうピケット、いつもみんなが幸せそうにしてくれるから私も嬉しいよ」
二匹は手を取り合って笑い合います。
するとトモトモが、またもじもじとして言いました。
「ピケット、今日は新しい曲を作ったんだ。帰る前に少し聞いてもらえるかな」
「もちろん、いいよ。聞かせて」
ピケットはすぐそばの丸太に腰掛けました。トモトモはバイオリンを構えると、何度か深呼吸をして弾き始めました。
ポン、ポポン、ピン、トシャン。今回の譜も、聞けば聞くほど楽しくなります。足はムズムズ、しっぽはぴょこぴょこ、いつの間にかピケットは踊りだしていました。
「うわあ、楽しいねえ! トモトモ、今回の曲もすごいや!」
「それは良かった、ピケット!」
ポン、ポポン、トンピシャン。曲はどんどん速く、ぐるぐると進んでいきます。ピケットは次第に疲れてきました。
「ねえトモトモ! 僕疲れちゃったよ! 少し止めてくれないかい!」
「それがピケット! どうにも止まらないんだ! 弓から手が離れないんだ!」
「ええ!」
ポンポポン、ピントシャン! 曲はぐるぐるとものすごい速さになっていきました。ピケットの足もぐるぐると踊り続けます。
「誰か助けてえ!」
すると後ろから(いや前からでしょうか)カラアリ・ポポッコがやってきました。
「やあ君たち、まだやっていたのかい」
「ポポッコ! 足か止まらないんだ!」
ポポッコはあっと叫ぶと
「わあ!」
トモトモの手からバイオリンが離れます。ピケットは眼を回してその場にバタンと倒れてしまいました。
「いったいどうしたっていうんだい?」
「どうしたんだろうねえ」
「この曲を弾いてから、体がおかしくなったみたいで」
ポポッコはトモトモから楽譜を受け取ると、まじまじと見ました。
「トモトモ、きっとこの曲はもう弾かないほうがいいと思うよ」
「ええ、本当に、私も困りましたから」
ポポッコとトモトモは楽譜をビリビリと破いてしまいました。
「ああ怖かった。でももったいないな、すごくいい音楽だったから」
「僕もほんの少ししか聞かなかったけどいい曲だったと思うよ」
「ピケットもポポッコもありがとう。曲はまた作ればいいから、今回はこれでいいんですよ」
破かれた楽譜は風にのって飛んでゆきました。
トモトモの新しい音楽は、今度からは耳栓をつけたポポッコを入れて三匹一緒に聞いたほうがいいかもしれません。
おわり
※1~10話覚書
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