第8話 月輪草とピケット

「月輪草とピケット」


 クリケットという生き物は、お酒が大好きです。中でも蜜月酒屋のクリケット・カラアリ・ポピットの作る満月酒というお酒は格別で、酒壺に浮かんだ満月を汲んだものだけで作られたそれは次の新月が来るまでに無くなってしまうほどの大人気でした。

 ある時、真っ黒な体に尖った口をしたカラアリ・ピケットは友人のカラアリ・ポポッコが本を読んでいる所に出会いました。

「やあポポッコ、何を読んでいるの?」

「やあ、ピケット。これは月輪草がちりんそうについて書かれている本だよ」

「月輪草?」

 ポポッコが言うには、月の満ち欠けに応じて葉の形を変える、月輪草というものがあるのだそうです。その月輪草は満月のときに摘めば満月の形のまま、三日月のときに摘めば三日月のままというふうに摘んだときから形が変わらないのです。

「そんなものがどうしたっていうのさ」

「この月輪草を煎じて飲むととても美味しいそうだよ」

「ただのお茶かい?」

「このあいだ満月酒が売り切れてしまったからね、その代わりに飲めるお酒を作れないかポピットと考えてたんだよ」

 ポポッコはぺらりとページを捲ります。

「ん、あったあった。月輪草を乾燥させて、それをお酒に浸して飲むと格別に美味しいらしいよ」

「月の形で味が変わるの?」

「そうみたいだ、この前の満月の時に摘んでおいたのがあるから、これを使って飲んでみよう」

ピケットとポポッコは二匹でポピットの蜜月酒屋まで行きました。

「ポポッコ、それにピケットも。二人してどうしたんだい?」

「満月酒に代わるお酒を作れないかって言ってたろう? 月輪草というものをみつけてね」

「へえ、やってみようか」

 ポピットはお酒を出しました。三匹とも乾燥した月輪草をお酒に浸します。

 そして飲んでみましたが何も味は変わりません。温めたり冷やしたり、草をちぎったりしても味は変わりませんでした。

「なんでだろうねえ」

 そうこうしているうちに夜になりました。窓から月の光が入ります。

 そうするとなんと月輪草が光りだしました。

「ねえ見てごらん!」

 三匹とも急いでそれを飲みました。するとどうでしょう、甘く芳しく、ほっと心地つくような満月酒の味そっくりの美味しいお酒ができたのです。

「月のある夜にしか飲めないんだね」

「うん、さすがに満月酒とまったく同じとは言えないけれど、これも美味しいねえ」

 三匹は笑って月輪草のお酒を飲み干しました。そしてポピットのお店に新しく月輪酒というメニューが加わったのでした。


おわり

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