第7話 銀空豆とピケット

「銀空豆とポポッコ」


「おやポポッコ、何をしているの?」

 よく晴れた日のつづく夏の午後、クリケット・カラアリ・ピケットはカラアリ・ポポッコが何かを育てているのに気づきました。茶色の植木鉢に緑の蔓草がよく伸びてます。

「やあピケット、これは銀空豆さ」

「銀空豆なんか、その辺にいくらでも生ってるじゃない」

「そうだけどね、これはちょっと特別なんだ」

「特別?」

「そう、特別」

 ポポッコはジョウロを手にすると太陽と自分の位置をよく確かめて、そっと傾けました。さあっと流れ出た水は細かな粒子となって、美しい虹を作りました。銀空豆の茎が虹の中で輝いています。

「これがどうかしたのかい?」

「うまく虹の中に入るように水をかけないと駄目なんだ」

「虹の中に? それでどうなるってのさ」

「いいからもうしばらく待って、三日くらいすれば収穫できるからさ」

「わかったよ、何が出来るのか見せてね」

 ピケットはそのまま釣りにいきました。途中、銀空豆が生っているところも通り過ぎ、どうしてわざわざ植木鉢なんかで育てるんだろうと首を傾げました。

 そして三日経ち、ピケットはまたポポッコのところへ行きました。

 植木鉢の銀空豆は大きく育ち、さやに包まれた実は今にもこぼれ落ちそうでした。

「すごく大きくなったね、ポポッコ」

「ピケット、うん、今日まで晴れてくれてよかったよ」

「一体何だったの?」

「さやを開けてみればわかるよ」

 二匹はそっと力を入れてさやを開きます。すると中からは銀空豆の銀色よりも輝く、虹色の豆が入っていたのです。

「これどうしたの! こんなに光った銀空豆見たこと無いよ」

「これは銀空豆じゃなくて虹空豆さ。前に図鑑で読んで作ってみたくなってね」

「虹がかかるように育てないといけないの?」

「うん、それに途中で雨が降ると虹の中に入ってくれないから」

「そっか、大変なんだね。ねえ、これってどんな味がするの」

「味は銀空豆とそんなに変わらないみたいだよ」

 ピケットはぽかんとしてポポッコを見ました。

「大変な思いをして、そんなのを作ったの」

 ポポッコはくすくす笑いました。

「やってみたかったからね」

「やってみたかったなら、しかたないね」

 ピケットもくすくす笑いました。

 そして二匹で虹空豆を食べて、また笑いました。本当に全く、銀空豆と同じ味でした。


おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る