第2話 月を釣るピケット

「月を釣るピケット」


 ある三日月の晩のこと、一匹のクリケット・カラアリが月夜ヶ池で釣りをしていました。クリケットというのは小さな生き物たちのことで、カラアリは全身真っ黒で尖った口先をしているのが特徴です。このクリケットもまた、クリケット・カラアリ・ピケットと呼ばれていました。

 ピケットがなぜこんな夜中に釣りをしているかというと、今夜の三日月があんまりに綺麗でどうしても釣って自分のものにしてしまいたくなったのです。皆さんだってそういうことがあるでしょう。今日のピケットもそうだったのです。

「こんばんは、ピケット」

 ピケットと同じ姿をした、友人のカラアリ・ポポッコが現れてあいさつしました。

「やあ、ポポッコ。いい月だね」

 ポポッコはピケットの隣に座りました。

「一体こんな夜中に何を釣ろうって言うんだい」

「お月様さ。あの三日月、とっても綺麗だろう」

「へえ、そうかい。釣るんなら餌がなくっちゃ。なにをつかってるんだい」

 これさ、とピケットが帽子トップハットをひょいと持ち上げとりだしたのは(クリケットはみんな素敵な帽子をかぶっているのです)まあるくてきれいなお餅でした。

「うさぎの搗き屋のおもちだねえ。それで釣るのかい?」

「ああ、こんなに丸くて綺麗なんだもん。三日月だって欠けた部分に欲しくなるに決まってるさ」

「それならそうだろうね。おや、糸が引いてるよ」

 ピケットは急いで釣竿を力いっぱい引きました。うんうんとうなってついにポポッコも手伝って引きました。そしてとうとう釣り上げたのです。

「おやまあ、なんだろうねこれは」

 ポポッコが言うのも無理はありません。二匹が釣り上げたのは月ではなく、そこに住む兎だったのです。

「さすがうさぎの搗き屋のおもちだ。月の兎までつりあげるなんてね。」

 二匹のクリケットは顔を見合わせて笑いました。

 そんなことをしているうちに月の兎はぽんと跳ねると月夜ヶ池の三日月にもどってしまいました。あとはゆらゆらと水面に笑う三日月だけが残ったのでした。


おわり

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