第22話
記念すべき、待ちに待った1通目。
このメールになんて返そうか、考えても考えても時間が足りない。
「別に今返さなくてもいいよ。届いたの確認できたし」
そう言って彼は立ち上がり、
「遅いから、送ってく」
そう言って半歩前を歩き出す。
「ちょっと、待って!」
思わず彼を呼び止めた。
「帰らないの?」
「いや帰るけど・・まだ返事、書けてない」
「だから今じゃなくてもいいって」
「今じゃなきゃダメなの!」
今じゃなきゃ、ダメなんだよ。
同じタイミングで、一緒に喜びたいのに。
「今返事考えるから、もうちょっと待って」
「・・・ん」
そう言って彼は近くのブランコを漕ぎ出した。
返事を考えやすいように、配慮してくれたのかな?
そういう小さな気遣いさえ、今は嬉しくてたまらなくなる。
ブランコを静かに漕いでいる彼を横目に、もう一度ベンチに座る。
そして、先ほどのメール画面を開く。
文字を読むたびに、心臓の真ん中が痛くなる。
でも、今まで感じていた痛みとは真逆の痛み。痛いけど、全然痛くない。
さて。なんて返そうか。
返事を考えるために何度も読み返すこの文字に、自然と口角が上がる。
二階堂くんが自らブランコへ行ってくれてよかった。
文字を打っては消し、打っては消しを繰り返す。
もっと、簡潔に。でもちゃんと自分の気持ちを乗せて。
「・・・よし、できた」
やっとの思いで書いたメールを送信する。
画面に“送信しました”と表示されてから数秒後。
さっきまでブランコを漕いでいた彼がこちらに向かって歩いてくる。
ちゃんと、届いただろうか。
私の目の前に立ち、携帯画面を見せる。
「これ、ズルくない?」
「だって本当のことだもん」
暗闇でもわかるくらい、彼の頬が染まっている。
でも、ここでは気づかないふりをしてあげた。
彼が見せてきたメールの画面には、
『やっと届いた。嘉神香燈』
ずっと伝えたかった思いが届いていた。
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