第15話


それから、私と小鳥遊さん、それに山田くんの3人で度々お昼ご飯を食べることが増えた。






あの日以来、山田くんの友人の話が出ることはなかったが、いつもどこかで期待している自分がいた。














そんなある日。






いつも通り、一緒にご飯を食べようと声をかけられた。






授業が終わり、お弁当を持っていつもの席へ向かう。






すでに小鳥遊さんは着いており、相変わらずパンとコーヒー牛乳を用意している。












「今日はサンドイッチじゃないんだね」






「スタートダッシュが間に合わなくてサンドイッチ戦争に勝てなかったの」






「その戦争に勝てた人が手に入れられるんだ」






「そうだよ。なかなか難しい戦いなんだから」












その戦いに負けたはずなのに、なぜか誇らしく話す小鳥遊さん。






知り合ってからしばらく経つけど、まだまだ知らない小鳥遊さんの一面がありそうだ。






小鳥遊さんの横に座り、持ってきたお弁当を広げる。






それと同時に1つ目のパンを開けた小鳥遊さんの前に山田くんともう1人の男の子が。












「今日俺の友達も一緒でもいい?」






「別に私はいいよ、香燈ちゃんは大丈夫?」






「え、うん。どうぞ」












サンキュ~と言いながら前の椅子に腰掛ける2人。






小鳥遊さんの前に山田くん、そして私の前に。












「こいつ、俺の友達の二階堂陸。無愛想でそんなに喋んないけど、根はいい奴だから」






「私、2組の小鳥遊のりっていいます」












小鳥遊さんの挨拶にぺこっと頭を下げて返答する。






そのまま、視線がこちらに向かってきた。






そして、目が合う。












「あ、私ものりちゃ・・小鳥遊さんと同じ2組の嘉神香燈といいます」












最近やっと小鳥遊さんをのりちゃんと呼べるようになったのに、一直線に向けられている視線になんだか緊張してしまい、思わず敬語になってしまった。






彼は私の挨拶にもぺこっと頭を下げるだけで、そのまま山田くんの横に座りパンを食べ始めた。
















そのまま、山田くんの言う通り二階堂くんは喋らなかった。






でも無愛想という感じはなく、時折山田くんの冗談に笑顔を見せることもあった。






そして、気のせいかもしれないが、何度か目が合った。ような気がした。












「次の授業遠い教室だから早めに戻るね~」






「あ、俺も次移動だわ。俺も先行くわ~」












そう言って山田くんと小鳥遊さんが席を立つ。






このまま置いて行かれるのはなんとなく困る気がして、急いでお弁当を包み直す。






すると、前から小さな声で、




























「そんなに急ぐと、また落とすよ」




























まるで子供をなだめるかのような、そんな声が聞こえた。






思わず目を合わせて、










「い、いま、私に言った・・んです、よね?」










と、問いかけてしまった。






すると彼はさっきの笑顔とは違う、まるで陽だまりのような笑顔で、














「だって、嘉神さん大事なもの落とした前科あるから」




















そう言って、私の手元をずっと見つめた。






















その目を見て、私は確信した。






もう、間違えようがない。
















「二階堂くん・・・だよね。私と、入学式の日にこのヘアピン一緒に探してくれた人って」














髪からピンを外し、目の前に差し出す。






彼は私の手元のピンを見て、そのまま私へ視線を戻す。












「あの時は見つかったことが嬉しくて、ちゃんとお礼を言えずごめんなさい」










椅子に座ったまま、頭を下げる。










「おばあちゃんからもらった大事なものなんでしょ?」












「・・、え、なんでそれを・・・?」










このピンが祖母からのプレゼントということは、家族以外誰も知らない。






唯一話す小鳥遊さんにも、この話をしたことはない。
















「あの日、嘉神さんが教えてくれたよ。おばあちゃんからもらった大切なものなんだって。だからどうしても見つけなきゃいけないんだって。だから一緒に探した。多分あの時の嘉神さんは今の姿からは想像できないほどテンパってたから覚えてないと思うけど」
















そう、だったのか。










彼の言う通り、私はその時どんな発言をしたかだけではなく、出来事そのものも忘れかけていた。




















「ごめん・・。本当に焦っていて、まともにお礼も言えてなかったと思う。あの時は本当にありがとう」






「別にお礼言われることしてない。見つかってよかった」






「いや、お礼くらい言わせて。大したお返しできないんだから」


















本当は見つけてくれたお礼に何かしたかったが、基本的に男の子と絡みのない学生時代を送ってきた私では何がいいのか、全く想像がつかなかった。








それに、これを小鳥遊さんや山田くんに相談するのは違うだろうし、こんなに早くその人に会えるとも思っていなかった。




















「お礼、?」






「そう、お礼!私にできることだったらなんでも!アルバイトとかしていないから、高価なものとかは難しいけど・・・」






「それなら、1つだけ・・あ、る」






「何?本当に助かったの、なんでも言って?」


















すると、彼の顔がほんのり色付き始める。






なんだろう、そんなに言いづらいことなのだろうか。






アルバイトしていないことを先に言ってしまったから、言いづらい雰囲気にしてしまったのだろうか。
















数秒間、わたしたち2人の間に絶妙な空気が漂う。


















そして、彼がそっと口を開いた。


























































「嘉神さんの連絡先、教えてほしい、です」

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