第14話
「・・・それ、絶対山田くんが言っちゃダメなやつじゃない?」
「え!あ、これ俺が言っちゃいけないの?!!もっと早く教えてくれよ小鳥遊!!」
思考が停止した私を置いて、目の前で2人が騒いでいる。
世界に1人だけ取り残されたのだろうか、耳に一切音が入ってこない。
「俺、あの子のこと見つけられるから大丈夫、だってさ」
何も情報がないのに、どうやって見つけるつもりなんだろう。
そもそも、私のことを探しているのだろうか。
山田くんがひとりでに盛り上がっているだけの可能性も十分あり得る。
でも、山田くんの予想が当たっていて、その人が私の大切なピンを一緒に探してくれた人なのであれば改めてお礼が言いたいし、友達になれたらうれしいと思う。
「・・・山田くん」
突然私が声をかけたので、思わず肩をすくめる山田くん。
小鳥遊さんからのツッコミが充分に効いてしまっているのだろう。
「その、山田くんの予想が当たってたとして、もしその人が私のピンを一緒に探してくれた人だとしたら、私は改めてお礼が言いたいな・・・と思ってる」
緊張とは違う、ハッキリとはわからない感情が私の心臓をチクチク刺してくる。
今までなにも考えずにできていた“呼吸”が全然うまくできない。
「でも、どうしたらいいのか。どうなるのがいいのか私にはわからなくて・・」
この先、どうやって言葉を紡いでいいかわからずそのまま俯いてしまった。
周りが盛り上がっているだけと言われたらそれまでだし、そこでなんでお前がこんなに悩んでいるんだと言われたらそうなんだろうけど。
でも、こんなこと自分の人生で起こるなんて誰も想像しないでしょ?仮に想像したとしても、現実に起こるなんて本気で思わないでしょ?
今自分がうれしいのか、怒ってるのか、悲しいのか。本当に何もわからないのだ。
すると、山田くんと入れ替わりで小鳥遊さんが隣に座ってくれた。
「香燈ちゃん、今答え出そうとしなくても平気だよ」
そう言いながら、細く綺麗な手で私の背中を撫でてくれる。
「山田くんが言ってる人が本当に香燈ちゃんなのかどうかもわからないし、相手がその時の人を探してるかどうかもわからない。今回は山田くんが1人で暴走してるのがいけないと思うし」
小鳥遊さんの優しい声に、少しずつ呼吸ができるようになっていく。
そっか。別に今急いで答えを出そうとしなくてもいいのか。
「とりあえず今日はそういう人がいるんだ~くらいでいいよ。もし今後その人がその女の子探してるとかなら山田くんがここに連れてきたらいいじゃん」
「あ、そうか。俺があいつを連れてきたらよかったのか」
私の背中を撫でつつ、鋭い視線を山田くんへ向ける小鳥遊さん。
「そうだよ、そもそも山田くんがややこしくしてるんだから」
「それは、ほんとごめんなさい・・」
さっきまでキラキラの笑顔で楽しそうに話していたのに今はイタズラを叱られた子犬のようだ。
耳がすっかり垂れてしまっている。
そんな姿に思わず笑ってしまった。
「山田くんごめんなさい。私も少し事を重く捉え過ぎちゃったみたい」
香燈ちゃんは悪くない!と最後まで味方してくれる小鳥遊さん。
だから謝ってるじゃん!と訴え続ける山田くん。
おばあちゃん。
おばあちゃんがくれたヘアピンのおかげで、楽しい高校生活が送れそうです。
ずっと、見守っていてね。
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