第13話


この人はどこまでも素直なんだな。






なぜか冷静に感心してしまった。












「っ・・・!!!ちげぇよ!!あーだから、そうじゃなくて・・」














違うのか。よかった、私が小鳥遊さんほど素直じゃなくて。


















「俺も嘉神さんと話してみたいと思ってたけど、俺の友達と仲良くしてくんねーかなって思ってんのよ」






「山田くんの友達?」






「そう。俺と同じクラスなんだけどさ。前に嘉神さんのこと話したことがあって」






「私と?授業一緒の人かな」






「それはわかんねぇんだよなー。教えてくれなくて。でも俺の予想ではそいつの話してる人は嘉神さんのことだと思ってんだよねー」






「え?もしかしてその人が香燈ちゃんかどうかも分からずに話してんの?」






「うん。確証はないけど俺の予想はぜってぇ当たってるね!」


















恐ろしく軽蔑した目で山田くんを見る小鳥遊さん。






思わず笑ってしまいそうになるけど、ここはグッと堪えた。






















「だからさ、もし嘉神さんがよければあいつと仲良くしてほしいんだよ」






「だから、山田くんの言うあいつって誰なのよ」






「それはあいつのプライバシーがあるから言えない」






「君の口からプライバシーって言葉が出てくること自体ムカつくんだけど」
























仲良くするのは全然いいのだけど、一体誰なんだろう。






授業一緒の男の子は数人いるけど、話したことはないし思い当たる節が全くない。
















「山田くん。仲良くするのは、その・・全然いいんだけど。その友達の言ってる人って本当に私なのかな?」






「うん。絶対嘉神さんだよ」






「だから、なんの根拠があってそう言ってんのって聞いてんの」








































すると山田くんは徐に私の隣の空席に座り、じっとこちらを凝視する。










「え・・っと・・・」


















どうしよう。男の子とこんな近くで話したことなんてないのに。






何か、怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか。






うまく呼吸が出来ず、両肩が上がってしまう。






視線をどこに持っていっていいのか、それすらわからない。


























「嘉神さん、このヘアピンずっと付けてるやつ?」






「ヘアピン?うん、入学祝いで祖母がくれたやつで基本的には毎日つけてる、けど」












このヘアピンは、大好きな祖母が高校入学のお祝いとして贈ってくれたもの。






大人への第一歩、としておしゃれなピンを選んでくれたのだ。


























「このヘアピン、どこかで失くしたりしなかった?」






「失くす?」






「うん。どっかで落としたりとか」






「香燈ちゃん、気持ち悪いと思ったら答えなくてもいいんだよ」






「・・・・あ」
































思い出した。












「1回だけ。1回だけ失くしかけたというか、落としちゃったこと、ある」












記憶の片隅に追いやられてたけど、今ハッキリと思い出した。


















「香燈ちゃん、それほんと?」








「うん。本当。入学式の時、人混みに慣れてなくてうまく歩けなくて。で、多分その時に誰かとぶつかってこれ落としちゃったの。しばらく経ってトイレで鏡見た時に気づいて。急いで落としたであろう場所に戻ったんだけど全然見つからなくてさ。もう見つからないだろうと思ってたら、1人の男の子が一緒に探してくれて。で、しばらくしたら見つかったの」


















そうだ、そうだ。






あの日、可能性のある場所をひたすら探して、でも全然見つからなくて。






もう半分諦めてて、高校生にもなって情けないって泣きそうになってたとき。






ある1人の男の子が一緒に探してくれたんだった。






見つかったことが嬉しくて、すっかり忘れてた。


















「香燈ちゃん、その時名前とか聞かなかったの?」








「うん。お礼を言ったら何も言わずに帰っちゃって。探すのに必死だったから顔もあまり覚えてなくて・・。正直、山田くんに聞かれるまで忘れてた・・」








「思い出してくれてよかった。多分そいつなんだよね、俺の友達」










山田くんは優しく微笑む。












「俺ら廊下で喋ってたんだけど、あいつが急にどっか行っちゃってさ。何かと思ってふと外見たら女の子とあいつが何か探してるっぽくてさ。今思えばそれがあいつと嘉神さんだったんだろうけどそん時は当然名前わかんなかったし元々あいつの知り合いなのかなーとか思ってたんだよね。でも、しばらくして戻ってきたあいつの様子が妙におかしくて」








「妙におかしいって、山田くんに言われるなんて相当じゃない?」








「小鳥遊は俺のことなんだと思ってるわけ?まいいや。でね、俺はピーンときたわけよ」








「ピーンとかダサ」








「真面目に聞けよ、こっからいいとこなんだから。戻ってきた時に知り合い?って聞いたら首を横に振るからさ、じゃあ名前聞いたのかって言ったの。したらあいつ、聞いてないとか言いやがって。名前もわからなければ、学年もわかんねぇって言うし」








「物一緒に探したくらいじゃ、わざわざ聞かなくない?」








「俺的には探し物しただけの仲って感じじゃなかったんだよね。最初はそうだったとしても。でさ、俺はもう会えないかもしんねぇぞ!って言ってやったわけよ。その子の特徴とかなんも情報がないわけだし。そしたらさ、」


















ここまで言い終えると、私に正面から向き合い、




































「俺は、どこにいてもあの子のこと見つけられるから大丈夫、だってさ」

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