第12話


「あ!香燈ちゃん!こっちこっち〜!」
















結局お弁当の中身は思い出せなかった。






名前を呼ばれ、指定された席に腰掛ける。












「授業お疲れー!もう1人来るんだけど、ちょっと遅れてるから先食べよ」












そう言うと彼女は購買で買ったパンを開け口に運んだ。






女の子が大きな口で頬張る姿に、何だかキュンとした。












「そんなに見られると、食べづらいんだけど」












口の周りにサンドイッチの卵をつけたまま話す小鳥遊さん。






こういう飾らないところが、いろんな人を惹きつけるんだろうな。






私も、そんな彼女に魅了されている人間の1人だ。














「香燈ちゃんは、いつもお弁当なの?」






「うん。お母さんが作ってくれる」






「いいなー。うち面倒だからって作ってくれないんだよねー。ま、お昼ご飯代としてお小遣いくれるからいいんだけどさー」






「でも購買のパン美味しいって聞いたことあるよ」






「美味しいけど、毎日食べてたら流石に飽きるよ」












そう言いながらも、彼女は嬉しそうに2つ目のパンを頬張り始めた。






小鳥遊さんは、パンが好きなのかな。














すると、彼女が急に立ち上がる。










「山田くん、こっちー!」










彼女に山田くんと呼ばれた男の子は、その声に気づき笑顔でこちらに近付いてくる。










「遅いよ。もう私パン2つ目なんだけど」






「だってなんか変な頼み事されたんだよ〜ごめんって。パンもう1つ買ってやろうか?」






「じゃあ、甘いやつ買ってもらおうかな」






「マジで食うのかよ」






「あ、山田くん。この子が嘉神さんだよ」










山田くんという人が小鳥遊さんの隣に座ったタイミングで紹介された。










「あーこの子なんだ!初めまして、俺は4組の山田って言います」










一重の切長の目をくしゃっとさせて笑う山田くん。










「初めまして、2組の嘉神香燈です」










私はそんな風に笑えないので、失礼のない程度に会釈した。










「山田くんが紹介してほしいって言ってきたのに遅れてくるなんて失礼だよ」










紹介?なんで?








「おい小鳥遊!余計なこと言うなよ!」










山田くんは聞かれたくなかった話題だったようで、思わず小鳥遊さんの肩を小突いていた。






こういうとき、どういうリアクションが正解なのかわからないので、とりあえずあまり聞こえていないフリをしてお弁当に視線を戻した。












「ねぇ、香燈ちゃん」






「ん?」






「香燈ちゃん、どんな人がタイプ?」
















突拍子もないことを聞いてくる小鳥遊さん。






こっちは白米を咀嚼し嚥下しようとしているタイミングなんですが。






気管に入りそうになった白米たちをギリギリのところで軌道修正し、元の道へ戻す。












「と、突然なんでそんなこと・・」






「ん?山田くんが気になることってそれだから」






「おい!!!小鳥遊!!!!!」










山田くんが勢いよく立ち上がる。顔がりんごのように真っ赤だった。








「今まで誰も好きになったことがない、なんてことはないでしょ?」








山田くんの制止を無視し、感情の赴くまま会話を続けていく小鳥遊さん。












「好きな、人のタイプ、ってこと?」






「うん。そう。背が高い〜とか、勉強ができる〜とか、優しい〜とか。色々あるでしょ?」










好きな人のタイプ、か。






そんなこと、考えたことなかったな。






今まで人を好きになったことはあるけれど、タイプを改めて聞かれると言葉にするのが難しい。














「ちなみに私はリアクションが可愛い人。ちょっといじめたくなっちゃうんだよね」












いたずらっ子のような笑顔を見せた小鳥遊さん。






彼女に想ってもらえる人が、少し羨ましくなった。
















「考えたことないけど・・でも優しい人だといいな」


















考えてみたけど、やっぱり思い浮かばない。






でも、小鳥遊さんみたいに相手を思いやれる優しさを持っている人だといいなと思った。












「ふーん。優しい人ねー。ありきたりだけど案外大事だったりするよねー」






パンを食べ終わった彼女はコーヒー牛乳のストローを噛みながら話す。














「だって、山田くん」










そして急にここまでずっと黙ってご飯を食べていた山田くんに話を振る。






そのパスが豪速球すぎて受け取る方は恐怖さえ感じるだろう。






当然、そのパスを全身で受け取った山田くんは咽せていた。














「だから急に話題を振るなっていつも言ってんだろ!」






「だってこの話題、山田くんが知りたいって言ったんじゃん」






「いや・・それはそうなんだけど・・」












またも山田くんの顔が赤くなる。






さっきも好きな人、みたいなワードが出たタイミングで赤面してたな。
















































・・・・・・・ん?






え、もしかしてそういうこと?






いや、流石にそれはないだろう。






そもそも初めて会うのに。






接点もない私を、そんな目で見る理由が見つからない。












「いやー・・俺嘉神さんと授業も被らないし、喋ったことないからなかなかキッカケ作れなくて。そんな時、小鳥遊と喋ってるとこ見かけて、これはチャンス!と思って・・」


















楽しそうに、でも少し恥ずかしそうに話す山田くん。






それを表情を1つも変えずに聞いている小鳥遊さん。


























これ・・・・やっぱりそういうことなの?






恋愛に疎い私でも、この流れは流石に勘違いしそうになるんだけど。












照れている山田くん。その隣には涼しい顔した小鳥遊さん。






そして、そんな小鳥遊さんの前に座る脳みそ爆発寸前の私。






昔、こんな構図を少女マンガで読んだな。




































「ねえ」












山田くんと私の間の沈黙を小鳥遊さんが切り裂いた。
















「聞いてると、山田くんが香燈ちゃんのこと好きみたいに聞こえるけど、そうなの?」

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