第11話


私と二階堂くんの出会いは、高校に入ってからだ。






中学の頃から人付き合いが得意ではなく、初対面の人に自分から話しかけられない。






そんな私が、一言も発することなく入学初日を終えようとしている時だった。














「あの、私と同じクラスの人ですよね?」












振り返ると、そこには肩にかかるぐらいの髪型で綺麗な栗色をしている女の子が立っていた。








「席、近くだよね?」








私の近くにこんな可愛らしい人が座っていただろうか。






目立たないように息を潜めていたから、周りにどんな人がいるのか見る余裕さえなかった。










「私、小鳥遊のりって言います。1年間同じクラスだから仲良くしてね」










そう言うと、小鳥遊さんは春に吹く柔らかい風と同じような笑みを浮かべた。












「あ・・。私、嘉神香燈と言います。」






「香燈ちゃんって呼んでもいい?」






「ど、どうぞ・・」






「私のことはのりでものりちゃんでもなんでも!呼びやすいので呼んで!」














そして彼女はひらひらを手を振りながら光の中へ消えていった。


















それから毎日、小鳥遊さんと挨拶を交わすようになった。






小鳥遊さんの周りはいつも人がいて、でも私を見かけると声をかけてくれた。












「あ!香燈ちゃん!おはよ!」






「小鳥遊さん。おはよう」






「香燈ちゃん、いつまで私のこと苗字で呼ぶの?もう入学式から1ヶ月経ったよ」






「なかなか下の名前で呼ぶことに慣れなくて・・。呼びやすいので呼んでって言われたから・・」






「あれは初めての挨拶だったからそう言っただけで、1ヶ月以上も苗字で呼ばれるなんて思ってなかったもん」












私はあの日以来、ずっと小鳥遊さん、と呼び続けている。






周りの人たちは彼女を下の名前で呼んだり、苗字を呼び捨てしたり友達のように気さくに呼び合っているみたいだけど、私はまだそこのエリアには到達していない。










「ま、香燈ちゃんが呼んでくれるなら苗字でもいいよ。ここで強要したら名前すら呼んでくれなさそうだし」












この人、人の心が読めるのか。






正直、こんなキラキラした人の苗字呼ぶだけで精一杯なのに、下の名前で呼ぶなんてハードルが高過ぎる。






でも、私は相手の気持ちをちゃんと配慮してくれる彼女の性格に何度も救われている。












「そうだ。香燈ちゃんいつもお昼どうしてるの?」






「お昼?お弁当持ってきてるから適当な場所で食べてるけど・・」






「じゃあ今日一緒に食べない?」






「え?」






「先約がいるとか?」






「いや・・そうじゃないけど・・」






「じゃあ決まりね。ここだとうるさいからテラスで食べよ。後で声かけるね」












じゃあ私移動教室だから〜、と言って颯爽と消える小鳥遊さん。






その姿にただただ手を振り返すことしかできなかった。
















高校に入学し、初めて友達・・というかクラスメイトと食べるお昼ご飯。




今日のお弁当の中身がなんだったか、そればかりに思考が集中し先生の声が全く耳に入ってこなかった。


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