第16話


2人の間に予鈴が響く。










心臓が、爆発する。
















「ゆっくり考えてくれたらいいから。じゃ俺先行くわ」
















彼はこちらを振り返ることはせず、その場から去っていった。


















その日の授業は全く耳に入らなかった。






頭のなかで、さっきのシーンが鮮明に蘇る。






突然のことすぎて何も返事ができなかったことが、少し悔やまれる。






















ちゃんと、はっきりとどうしたいのか。自分の中でわかってたのに。




































放課後、先生に頼まれた仕事をこなして教室に戻る。






すると、そこには1人の生徒が座っていた。












「あれ、山田くん」








「お、嘉神さんじゃん。まだ帰ってなかったんだ」








「うん、先生に呼ばれてて。山田くんは?」








「俺は友達待ってんの。嘉神さんと同じく先生に呼ばれたって言ってたけど、絶対説教だわ」








「山田くんは本当に友達が多いね。のりちゃんともいつも普通に話せてるし」








「別に多いわけじゃないよ。小鳥遊とは選択授業が一緒で席も隣でさ。それがきっかけで話すようになってーって感じ」








「そんな自然に隣の席の人と話せるの?」








「え、逆に喋れないの?」










荷物をまとめて、山田くんとの間を一列空けて座る。














「私、中学の頃から男の子と話すのが苦手だったから今だに緊張しちゃうんだよね」








「そんなに?前になんか嫌なこと言われたとか?」








「いやそういうことはないんだけど、何話していいかわからないというか。山田くんは中学の頃から女の子と話すのに慣れてたの?」








「慣れてるわけではないけど特別苦手意識もなかったなー」


















苦手意識。






こればかりは、どう克服したらいいのか。






お昼のときも、これがなければあの場で応えられていたのだろうか。


















「私も、もっといろんな人と話せるようになりたいな・・」






















独り言のはずが、ここは2人しかいない放課後の教室。






近くに座っている山田くんの耳にも当然届いてしまった。














「その気持ちがあれば、大丈夫だと思うよ」








「気持ちだけじゃ無理だよ。ずっと昔から思ってるけど実際今何も変わってないもん」








「だって今は、仲良くなりたい対象がいるでしょ?」








「・・・・・別にそれだけが理由ではないよ」








「わかってるよ〜。だけどそういう人がいるといないでは気持ちの強さも違うでしょってこと」




















気になる人ができたのは、初めてではない。






でも人にこうやって相談したのは初めてかもしれない。しかも、男の子に。
















「あ、そういや嘉神さん二階堂と連絡先交換した?」








「え!」










山田くんの口からタイムリーな話題が出てくると思わず、気づいたらなぜか立ち上がっていた。










「あ、やっぱり」










山田くんのにやけ顔を睨みながら制服を直すフリをして椅子に腰掛ける。










「さっきの感じだと嘉神さんからではないだろうから二階堂から?」










絶対こっちを見て喋ってるだろうから、1度だけ頷いた。






改めて言葉にされると、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。






ただ連絡先を聞かれただけかもしれないけど、私にとっては大きな出来事なのだ。












「やっぱりな〜。あいつ最初小鳥遊たちと一緒に飯食おうって言ったらめちゃくちゃ嫌そうな顔してたくせに嘉神さんが一緒って話したら満更でもない顔しやがってさー」










「そう、なんだ」










どうしよう、ちょっと嬉しくて表情が緩みそう。






でもさっきの山田くんと同じ顔にはなりたくない、そう思いスカートの上から足を少しだけつねった。












「でも2人が喋ったりしてなかったから何も進展ないのかと思ってたけど案外二階堂もやる時はやるんだな」








「なんか嫌な言い方・・。ただ、私がヘアピンを一緒に探してくれたお礼がしたいんだけどアルバイトしてないから高価なものはあげられないって言ったらじゃあ連絡先って譲歩してくれただけだよ」








「それって譲歩なのか?二階堂は本当に嘉神さんの連絡先がほしかったんじゃね?」








「私に聞かないでよ」








「だって俺その場にいなかったからわかんねぇもん。で?教えたの?」








「教えて、ない。厳密に言うと教えられてない」








「・・・俺にも分かるように話してくんね?」








「今すごく分かりやすくお伝えしたけど」








「急にわからなくなった」








「それはもう私の言葉の問題ではなく、山田くん自身の問題だよ」








「見捨てないでよ嘉神さん!」
















必死な山田くんがなんだかおかしくて、思わず笑ってしまう。






それを見て、山田くんも一緒に笑ってくれた。




















二階堂くんは、どうやって笑うんだろう。






いつか、こうやって話しながら笑い合える日が来るだろうか。














「嘉神さん」








「ん?なに?」








「二階堂もきっと、仲良くなりたいと思ってるはずだよ。嘉神さんと同じで」








「それは・・・どう、だろう」








「嘉神さんって変なところで急に自信無くすよね」








「・・・・・・でも、」




















山田くんに見えないように、拳をぐっと握りしめる。






















「二階堂くんがどう思ってるかは分からないけど、私は二階堂くんと仲良くなりたいと思って・・い、る・・」


























そう。






これが、私の本心なのだ。






ヘアピンを探しているときは、必死過ぎて何も考えられていなかったけど今は違う。






















私、あの日からずっと、二階堂くんが気になっているんだ。


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