第9話
「あの公園の近く?」
気づけば家まであとちょっとのところまで来てしまっていた。
二階堂くんが私の自転車からそっと降りて、辺りを見回す。
「この辺、街灯とか何もねぇんだな」
「昔は公園の周りに点いてたんだけど、今は切れちゃってるみたいで」
公園の周りをいくつかの街灯が囲んでいるのだが、いつからか電球が切れてしまっているようで最近はずっと真っ暗なのだ。
役場の人にも連絡をしているみたいだが、なかなか取り合ってもらえないと近所で話している人がいたのを聞いたことがある。
「またコインランドリー行くの?」
「うん、家に新しい洗濯機が来るまでは私が洗濯当番に任命されちゃったし」
「この時間に?」
「だって昼間暑いし。それに夕方とかだと結構混んでるみたいなんだよね。何回か帰り道に見かけたことあるからさ。今日みたいな時間なら誰もいないし、自転車で来てるから大丈夫かなって」
確かに家の周りは暗いけど、自転車だし家はすぐそこ。
頻繁に家族に連絡をしていれば問題ないだろう。
それに、こんなに派手なバッグに洗濯物をぎゅうぎゅうに詰めている人のことなんて誰も襲わないだろう。
「今日は初めてこの重さ持ったからうまくバランス取れなかっただけで、明日からは少し量を減らしたりするから大丈夫」
毎日行くのだから、全部じゃなくてもいいだろう。
ここまで重くなければ、自転車で数分で帰って来られる。
それに今日は遠回りもしてしまったから、それがなければもっと早く帰れるだろう。
彼から自転車を受け取り、お礼を言う。
「バイトで疲れてるのにありがとう。あとアイスも。ごちそうさまでした」
「別に平気」
「じゃあ、また。学校で」
そう言って、家の方へ歩き出した時。
するとまた、名前を呼ばれる。
「嘉神」
「ん?」
「俺、夏休み結構バイト入れてて。だから、今日みたいにタイミング合ったら声かける」
「え?わざわざ?」
「だって連絡先知らないし。帰りにコインランドリーの前通るし。じゃ、お疲れ」
そう言って、来た道に踵を返す。
家の方向同じって言ってたのに、嘘じゃん。
でも、情けない私はそのまま彼の背中を見続けることしかできなかった。
連絡先、ずっと待ってるのは私なんだよ。二階堂くん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます