第8話
何か話さなきゃと思っても、何を話せばいいかわからない。
というか、この状況も未だ全く理解ができてない。
今日家の洗濯機が壊れて、家族の中で一番暇な私が洗濯当番になって。
夕飯の後、自転車に乗ってコインランドリーへ行って。
その後はちょっと遠回りをして帰っていた。ここまではわかってる。
ただ。そこからだ。
なぜ今、私は自転車を彼に取られ、さらにはアイスを半分こしているのだろう。
緊張と気まずさと、いろんなものが混ざり合って身体が熱い。
手に握っているアイスが、どんどん溶けていく。
このアイスみたいに、私の緊張も溶けたらいいのに。
「嘉神」
「え、あ、はい」
突然名前を呼ばれ、同級生なのに敬語になってしまう。
同級生と言っても、特別仲がいいわけではないけど。
「なんでさっきからずっと黙ってんの?」
「え?」
「俺が声かけた時から、ずっとブツブツ一人でしゃべってるけど、俺には話してくれないから」
「ブツブツって・・・」
確かにそうかもしれない。
でも、普段からそんなに話す仲でもないし、男子と話すのは昔から苦手なのだ。
高校生になったら自然と話せるものだと思ってたけど、それは個人差があるみたい。
だから、今も喋りたくないのではなく、どう喋っていいのかわからないのだ。
しかも、彼だから余計に。
「ま、無理して喋らなくてもいいけど」
「別に、無理ではないけど」
「俺と喋るの嫌とか?」
「だから別に嫌とは言ってないじゃん」
「ふーん。嫌ではないんだ」
彼の口角がちょっとだけ上がったように見えた。
暗がりだから、確信は持てないけど。
「嘉神に嫌われてると思ってた」
「は?」
思わず、大きな声が出た。
そんな私を見て、彼は吹き出しながら笑った。
「こんな時間に大声出すなよ」
「いや、そっちが変なこと言い出すからじゃん」
「変なことじゃないだろ。最初声かける時も正直悩んだし」
あまりに普通に話しかけられたから、悩んでいる雰囲気には全く気づかなかった。
「普通に話しかけてきたじゃん」
「それは嘉神に無視されなかったから」
「名前呼ばれて、無視する人なんているの?」
「俺嫌いな奴だったら無視する」
「最低じゃん」
「全員が嘉神みたいに優しいわけじゃないんです」
なんか、普通に喋れてる。
さっきまで何をグズグズ悩んでたんだろう。
というか私別に優しくないし無視しなかっただけで優しい判断されるんだ。
「嘉神、普通に喋るんだな」
「普通に喋れない人だと思ってたの?」
「違う。でも最近あんまり笑ってるとこ見なくなったから」
思わず足が止まる。
この人、どこまで私のこと見てるんだろう。
さっきまで普通に話せたのに、脳内を余計な考えが占領し始める。
「別に、普通に笑ってるよ。のりちゃんと喋ってる時とか。二階堂くんが知らないだけ」
「のりちゃんって小鳥遊?」
「そう。入学式でのりちゃんが話しかけてくれたのをきっかけにね」
「そっから仲良いんだ」
「うん」
なぜか急に二階堂くんが黙った。
え?なんかまずいこと言っちゃったのかな?
いやでも、今聞かれた質問に答えてただけだよね?
変な答え方してないと思うんだけど。
「なんか、私変なこと言った?」
夜の沈黙はなかなかに耐えられるものではなかった。
「何で?」
「急に黙ったから」
「あー、特に意味はない。仲良いんだーって思っただけ」
いやいやいや。
じゃあ何で黙るのよ。
普通にそうやって返事をしてくれたらよかったじゃん。
「二階堂くんは、普段誰と喋るの?」
このまま私も黙ってしまってはまたあの気まずさに襲われる。
それが怖くて、特別興味のないことを聞いてしまった。
「別に適当。小鳥遊も話すし、山田も話すし」
「本当山田くんと仲良いね」
「あいつうるせぇから」
表情は嫌そうだけど、実際は本当に仲がいいんだろうな。
私もそういう友達、いつかできたらいいな。
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