第42話 朝

「う……ん……」

 どうやら少しは眠っていたらしい。重い頭を持ち上げて外を見る。薄明るい風景から考えると、まだ随分早い時間らしい。俺は目を閉じてみたけれど、もう一度眠る気にもなれず、とりあえずキッチンに降りることにした。


 下に降りると、人の気配がする。

「……大翔?」

「健!? ずいぶん早いね」


 大翔が台所でコーヒーを入れていた。珍しい。大翔の目は少し赤い。俺は何とも言えない罪悪感を覚えながら、キッチンに入った。

「おはよう。俺もコーヒー飲んで良いか?」

「うん。ちょっと多めに入れたから、大丈夫だよ。あ、健はコーヒー牛乳にする?」

「……頼む」


 大翔はいつものように機嫌よく、コーヒー牛乳を作り始めた。

「あ、あのさ、昨日は……」

 大翔の言葉を遮り、俺は言った。

「昨日は悪かった。ちょっと……頭が痛かったんだ」


「そうだったの? 大丈夫?」

 大翔は出来立てのコーヒー牛乳を俺に渡してくれた。

「ああ。もう大丈夫だ。すまなかった」

 俺はつまらない嘘をついた。大翔はいつもと変わらない様子で俺の目を見つめている。


「朝食は俺が作る。たまにはいいだろ?」

「え!? いいの? ……大丈夫かなあ?」

「俺だって玉子焼きくらいなら作れる」

「ふふっ。楽しみ」


 大翔はブラックコーヒーを飲みながら、食堂の椅子に腰かけた。

「市場に持っていくサンドイッチだけど、今日はきゅうりサンドと玉子サンドにしようと思ってるんだ」

「そうか」


 俺は大翔の向かいの席に座って、コーヒー牛乳を飲んだ。

「……目、赤いな」

「ちょっと、眠れなかったから。でも、大丈夫だよ」

 大翔の瞼が少し腫れぼったい。きっとあれから泣いていたんだろう。俺は大翔の目元を指先で優しくなでた。


「悪かったな……。一人にして……」

「ううん。健だって、目、赤いよ?」

「市場から帰ったら、昼寝でもするか」

「あはは。時間があるかな?」


 俺たちはコーヒーを飲み終えると、サンドイッチの仕込みを始めた。


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